「雑誌はどうやって作られ、店頭に並ぶのですか?」
賃貸住宅情報誌の制作部隊として社内に新設された編集企画課ですが、メンバーは私一人だったため本社の営業デスクのうちの1つを私用として割り当ててもらい、形ばかりの編集企画室が発足しました。
横で問い合わせの電話が鳴っているなか、私はデスクに座って「どうしたものか」と考えあぐねていました。とりあえず作業スペースは確保できたものの、何をどう作ってよいのか分かりません。社内に30名強いた社員のなかにも書店や出版社に人脈をもっている人間はおらず、誰かに紹介してもらうことも叶いませんでした。
私はただ考えていても埒が明かないと思い、近所の小さな書店に行き、店主に「雑誌類というのは、どのようなルートを経て店に届くのでしょうか」と尋ねてみました。私の不躾な質問に主人は少し驚いていましたが「この店は売上も少ないので小さな書店向けの問屋ルートで仕入れていること」「一般的には東販・日販という取次業者を通じて仕入れること」を丁寧に教えてくれたのです。
私は急いで会社に戻り、分厚い職業別電話帳をデスクに広げて「東販」「日販」の社名を探しました。見つからないので見落としたものと思い、改めて丹念に見直しましたがやはり見当たりません。
私はもう一度書店に戻って店主に「電話帳を探しましたが見つかりません。どうしてでしょうか」と聞くと、東販・日販は業界で使われている略称で正式名称は「東京出版販売(現在の株式会社トーハン)」「日本出版販売」であることを教えてくれました。さらに、店主は「中央社」という取次業者も名古屋に支社があることまで親切に教えてくれました。
「なぜ、そんなに問屋のことが知りたいの」と店主に言われ「雑誌を作って売りたいんです」と答えたところ、信じられないという表情をされたのを今でも思い出します。
今になって思えばその店主の気持ちも分かります。取次最大手の東販や日販の名前さえ知らない素人が雑誌を発刊するなど、業界を知る人からすれば無謀であり、夢物語に思えたに違いありません。しかし、そこは怖いもの知らずの素人ですから「東京と大阪でやっているのだから、何かやり方があるはずだ」と思っていました。
まだ20代という若さもあって、私は自分がいかに大きな挑戦をやろうとしているかなど気づきもしませんでした。