今後の賃貸ニーズの動向を踏まえ、次の50年に備える
筆者は今後も賃貸仲介業や賃貸管理業で地域に貢献していきたいと考えていますが、業界全体の未来図はきちんと分析しておかねばなりません。業界が変化・縮小するのであれば土俵から弾き出されたり、適応できなくなったりする者が増えるからです。
今後の賃貸仲介業がどうなっていくのか結論から先にいうと、賃貸住宅に対する社会のニーズそのものは今後も変わらず推移すると見ています。しかし、賃貸住宅に住む人たちの属性や賃貸住宅に求められる条件などは変わっていくはずです。
賃貸住宅のニーズが変わらないと考えている根拠としては、公的なデータがあります。
総務省では5年に1度「住宅・土地統計調査」を行っており、最新の2018年統計では持ち家比率が61.2%とあります。図表1を見ると1988年から多少の増減はあるものの、ほぼ横ばいです。実はデータが確認できる1968年から50年以上にわたり、この持ち家比率は60%前後で推移しており大きく変化はしていません。つまり、今後も同程度の持ち家比率が続くものと考えられるのです。
持ち家比率が約60%ということは、賃貸に住む人の割合がだいたい40%と考えることができます(持ち家でもなく賃貸でもない人もいますが、ここでは概数が分かればよいので省きます)。
マイホームは昔も今も人々の憧れですが、やはり「賃貸がいい」という人や「賃貸でないとダメ」という人もいます。転勤族の場合はマイホームをもつことが足かせになってしまうことがあります。結婚当初は賃貸に住んで、子どもが生まれたり小学校に入学したりするタイミングでマイホームに住み替える家庭も少なくありません。一定の場所に住み続けるより時々引っ越して気分転換したい人や、ステータスに合わせて住まいもレベルアップしていきたいという人には賃貸のほうが向いています。
もう1つ注目したいのは、図表2の年齢別の持ち家比率です。過去30年を比較してみると若年層で持ち家比率が低下しています。終身雇用が崩壊して将来の生活への心細さがあることや、生涯にわたって年収が上がりにくい、年金制度もどうなるか分からないなどの不安要因が背景にあると考えられます。一部には縛られない生き方を好む人が増えているということもあるのです。
若い人たちがマイホームをもたなくなるということは、それだけ賃貸の需要が増える可能性があります。今後も国民の4割(もしくはそれ以上)が賃貸に住むと考えれば、賃貸仲介業界の将来性は決して暗いものではありません。
賃貸に住む人の属性は時代とともに変化する
次に、賃貸に住む人たちの属性についてですが、筆者がこの業界に入った頃は家族で賃貸に住んでいるケースが目立ちました。そのためファミリータイプの間取りが人気だったのです。しかし、ここ30年くらいは単身者向けの1DKや1LDKのニーズが増えています。
生涯を未婚で通す人や、高齢者の一人暮らしが増えているためです。お一人さま向けの賃貸ニーズは今後も減ることはありません。
また、外国人労働者が増えていることで、賃貸住宅に住む外国人が急増していることも近年のトレンドです。
派遣会社が社宅を借上げて社員に提供しているケースが多いですが、日本人とは文化や習慣が異なるため近隣トラブルが起こることもあります。先日あった事例では、東南アジア出身の住人が料理をするのにスパイスを大量に使うため洗濯物に匂いが付いて困ると近隣から苦情が来たことがありました。
こういう場合は不動産会社から契約者である派遣会社に連絡して、派遣会社から当人に注意してもらうことになりますが、当人も悪気があってしている行為ではなく日本人が味噌汁を作る感覚なので、折り合いを付けるのが難しい問題です。
ただ、日本は少子高齢化で働く世代が減っているため、今のところ外国人労働力に頼るしかありません。今後も外国人労働者が増えることを前提として、賃貸仲介を考えていかなければならないのです。
加治佐 健二
株式会社ニッショー 代表取締役社長