名古屋のとある不動産会社は、事業拡大の一環として自社雑誌「アパートニュース」を刊行し、業績を伸ばしました。雑誌創刊を手掛けた社長はそれに飽き足らず、業務の効率化・IT化を画策します。それにより、単純な事務処理だけでなく、家賃保証といった不動産ビジネスの根幹部分にもシステム化・効率化が行われていったのです。大きな役割を果たしたのは、インターネットでした。

システム化がもたらした「大きな効果」

煩雑だった退去にまつわる事務処理がスマート化されたことで余力が生まれ、1980年から停止していた家賃保証サービスを再開することができたのもシステム化がもたらした大きな効果です。

 

この頃には厳格な入居審査によって借主選定をする仕組みが社内で確立していたことから家賃滞納の事案はかなり減っていました。しかしそれでも業務負担はまだ少なくはなかったためシステム化の恩恵は大きかったといえます。時代がちょうどバブル崩壊前だったことも推進力となり、管理事業部の営業所の多店舗展開が加速していきました。

 

1993年7月には「入居者への賃料請求システム」を稼働させました。入居者に請求するものには家賃・共益費・水道料金などがありますが、家賃や共益費などの定額のものと水道料金などの金額が変動するものは、別に処理したうえで合算して請求を行えるようになったのです。

 

また入金は現金持参や銀行振込のほかに、銀行への請求データ提出により引落とし処理および入金結果データの受け取りができるようにしました。これらの処理により、正確な賃料未入金リストが出てくるので、各営業所で回収が必要な入居者を把握することができるという優れものです。

 

これまで未納状況の把握に不安があって督促を躊躇していた社員が、このシステムが稼働してからは確信をもって回収業務を行えるようになりました。

社内の閉じたシステムから「開かれたシステム」へ

ここまでのデジタル化はすべて本社のオフコンと全支店・営業所にあるオフコンを専用電話回線で結んだもので、社内のみの閉鎖されたシステムでした。それが1995年にWindows95が登場したことによって外部にも開かれたシステムへと進化していきました。

 

Windows搭載のパソコンが発売となり、キーボード操作からマウスを利用した操作ができるようになりました。

 

かねて営業部からパソコンで顧客自身が物件検索できる仕組みが欲しいという要望を受けていた担当者は、Windows95パソコンにタッチパネルモニタを装着し、パソコン内に物件の空室情報を落とし込み、タッチパネルで物件検索ができる仕組みを構築しました。

 

そして、イベントがあれば現場にパソコンとタッチパネルモニタを持ち込んで、物件検索のデモンストレーションを行いました。イベント来場者の反応は上々でしたが、この時点ではインターネットにはつながっておらず、パソコン内のデータを検索する機能のみでした。

 

そこで新しい通信技術を理解すべく調査を始め、インターネットを使って物件の検索ができる仕組みが存在することが分かりました。しかし、インターネットにつなぐためのウェブ設備と社内環境の整備が問題でした。

 

支店のパソコンがインターネットに接続できる環境にするためには全支店の通信機器を総入れ替えしなければなりません(オフコン専用プロトコルからTCP/IPプロトコルに変更)。

 

また、ウェブで物件検索をした人がメールで問い合わせできるよう、メールサーバーの設置と各店舗パソコンへのメールソフトの導入も必要でした。ドメインの取得やウェブサーバーの新設、インターネット常時接続用の通信回線の新設なども必須です。

 

これらのすべてを整備して「アパートニュース」のホームページを開設したのが、1997年10月です。当時、約3割の支店長はパソコンさえ触ったことがなく、メール、インターネットといってもチンプンカンプンの状態でした。そのため、支店長向けにパソコン操作の説明会を行い、実際にパソコンを操作してメール対応ができる体制づくりを行いました。

 

ホームページを開設した頃はまだまだ「アパートニュース」本誌の反響が多くありましたが、早い段階でウェブサイトを運用していたことがあとあと活きました。本格的なインターネット時代が到来し、他社がホームページを作っている間に私たちの会社は一歩も二歩も先んじて、ウェブ経由の顧客獲得をすることができたからです。

 

その後、携帯サイトでも「アパートニュース」のコンテンツを開設したことで、反響はさらに大きくなっていきました。

 

インターネットの普及に対応して、通信網の改革も順次行いました。1995年頃の通信は、インターネットに接続するたびに電話回線でつなげるダイヤルアップが主流でしたが、2001年に各店舗の通信回線をフレッツ・ISDNに切り替えたのです。

 

これにより通信速度がアナログ回線よりアップするとともに通信料金が大幅に削減されました。ダイヤルアップの場合は回線をつないでいる間に電話料金が発生するため、長時間ネットにつないでいると費用がかさんでしまいます。また、回線がつながりにくかったり途中で切れたりすることもよくありました。

 

フレッツ・ISDN以降は定額で接続し放題となり、接続の安定性も増したのでアナログ回線より快適にインターネットを使えるようになりました。

 

2004年には各店舗の通信回線を光回線に変更し、2014年にはさらに高速の光回線にして通信速度の大幅向上を図りました。このようにして新しい回線サービスが登場するたびに社内通信網をバージョンアップしていくことで、進化するインターネット社会に即座に適応していったのです。

 

 

加治佐 健二
株式会社ニッショー 代表取締役社長

 

賃貸仲介・管理業一筋50年 必勝の経営道

賃貸仲介・管理業一筋50年 必勝の経営道

加治佐 健二

幻冬舎メディアコンサルティング

メーカーから転職して1976年に28歳で営業職として入社し、充実した日々を送っていた筆者。 その矢先、突然社長と常務から呼び出され「東海エリア初の賃貸住宅情報誌の創刊」を命じられたのです。 そして右も左も分からな…

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