全社をオンラインでつなぎ、事業の効率化を推進
私たちの会社のコンピューター導入の取り組みは1987年に遡ります。IBMのAS/400という機種のオフコンを総務課と経理課に導入したのが始まりです。1988年にはIT化推進の中枢としてシステム課を本社に新設しました。
オフコン導入に踏み切った理由としては、賃貸管理業における事務処理(主に経理関係)の煩雑化と遅滞がいよいよ深刻になり、一刻も早く改善する必要があったためです。
既存の経理処理ソフトを使って経理業務の効率化を図るのと同時に、業者に独自のソフト開発を依頼して管理業務のシステム化を進めました。賃貸管理は特殊な業務であるため、汎用ソフトでは処理できなかったからです。私たちの会社の実情に合わせて開発されたソフトでしたが、試行してみると使いづらい部分が多くあり、かえって業務混乱が増大するなどなかなか満足のいくものにはなりませんでした。
そんなとき、東京のシステム開発会社に勤務経験のある社員が1988年4月に総務課に入社し、さらに同年末にオフコンに詳しい社員が入社したことでシステム課の陣容が整い、社内業務のデジタル化が一気に進むことになります。
オフコンは当時の企業の間で一種の流行りではありましたが、中小企業では継続維持するための人材がおらず、多くは宝の持ち腐れとなっていました。そんななかで私たちの会社は有能なスキルをもった社員を確保でき、デジタル化がスムーズに運びました。これは本当に幸運だったと思っています。
仲介システム開発から2年で「全支店がオンライン化」
具体的にどのような歩みでIT化が進んでいったかというと、まずオフコンに詳しい長谷川という社員に入社から4カ月間、支店でさまざまな実務を経験させ、支店における仲介業務を理解してもらいました。
その後システム課に配属し、仲介部門に必要なシステム制作を命じたのです。結果からいうと、彼に実務経験があったことで痒いところに手の届くシステムや物件データベースが完成しました。彼は入居申込みの入力から契約金の入金・出金の処理、売上計上処理など、会計システムと連動した見事な仲介システムを構築してのけました。
私が特に感動したのはAS/400の既存経理ソフトにはない入出金日報ソフトを彼が自分で作ったことです。日々の入出金を入力すれば、毎日の支店での現預金残高の計算が自動で行われるのです。そして、そのデータを支店の金庫の現金および通帳と照合すれば、ミスや不正の防止に役立ちます。みんなが会計処理のスピードと便利さに驚き、「これがコンピューターの威力か」と思いました。
ただし仲介システムの支店への導入に当たっては、各支店にある物件台帳の中身をコンピューターに取り込まなければなりませんでした。創業からの十数年分もの膨大な物件台帳があり、その各項目を入力するのは気の遠くなるような作業です。そのため各支店の事務員や派遣社員にも手伝ってもらい、支店ごとに順番に入力していきました。そして入力の済んだ支店からシステムの稼働を始め、順次モデムによる専用回線を使ってオンラインでつないでいきました。
まさに一大事業でしたが、社員たちの頑張りのおかげでわずか2年ほどで全支店をオンライン連結することができました。その結果、各支店の経理データをオンラインで本社経理課に吸い上げ、迅速に一括処理することができるようになりました。
超複雑な管理事業部門も、自作システムでスマートに
管理事業部のシステム開発については専門業者に依頼していたのですが、その試作品は各データの連係がうまく取れておらず、実際にはとても使いづらいものでした。
そのせいで現場はかえって混乱しており、長谷川氏は試作品の使える部分は利用して全体を作り直すことにしました。ところが、管理事業部の現場はある問題を抱えていました。各営業所の請求書発行を本社でまとめて行っていたのですが、手書き処理であったうえに物件数が増えて業務量が膨大になっていました。
特に「立合い精算」(退去時に発生する部屋の原状回復のための精算)は処理が複雑で、専任の事務員しか処理方法が分からないため疲弊していたのです。そこで長谷川氏は次のようなシステムを先行して制作しました。
●修繕業務を行ったらその必要項目を入力する→請求書が発行される→入金されたら入金処理を行う
●退去者の立合い精算を行ったらその必要項目を入力する→退去者への請求書・オーナーへの報告書が同時に発行される
●単発請求の修繕を除く管理物件の請求必要項目を入力する→毎月1回の請求書が発行される
これらは本社での一括処理ではなく、モデムで結ばれた全営業所での請求書発行を可能にしました。これにより本社の処理業務のストレスが解消されました。
加治佐 健二
株式会社ニッショー 代表取締役社長