昭和時代の名古屋。キャリアに悩む技術者の青年は、縁あって賃貸業をメインとする不動産会社の営業マンへ転身。先輩に追いつくべく、夢中で仕事をこなしていたところ、社長から「雑誌創刊」の命令が…。手探り状態のなか、なんとか編集プロダクションの力を借りて雑誌作りを進行しますが、今度は販売経路の開拓という問題に突き当たります。

予想外の大仕事…「物件台帳の改良」に四苦八苦

編集プロダクションが手助けしてくれるのは企画・デザイン・版下制作から印刷の部分で、誌面の中身(物件情報のページ)を作るのは私の仕事です。まだ販路は決まっていませんが、7月1日に出版できる準備はしておかなければなりません。

 

編集プロダクションはいつでも印刷製本できるよう版下(印刷所に回す製版原稿)の制作を行い、私は各支店と協議をしながら社内業務を進めていきました。社内業務の流れはだいたい次のようなものです。

 

各支店に担当ページを割り振る。物件情報をもっているのは各支店のため、雑誌に掲載するお勧め物件を各支店で話し合って決めてもらう

各支店で担当ページを物件台帳を基に作成する(生原稿)

各支店から提出された生原稿を私が原稿にする

間取図、案内図、家賃、保証金などの情報に間違いがないかのチェックを重ねる

原稿を編集プロダクションに渡し、版下制作や印刷所とのやり取りを依頼する

 

手順としては複雑ではないのですが、なにせ私を含めて支店にいる全員が初めてのことです。やりながら考えているため行き当たりばったりのことが多く、社内はあたふたしていました。

 

最も困ったのが物件台帳の管理です。物件台帳というのは物件ごとのカルテのようなもので、所在地や間取り、広さ、家賃、築年数、木造か鉄筋か、オーナー名、その他の詳細情報が記載されています。要するに仲介契約時の物件情報の肝となる大事な資料ですが、支店によって、また記入する人によって書き方がバラバラなのです。細かく書く人もいれば大雑把に書く人がいたり、字の癖が強過ぎて読めない人がいたり間取図も思い思いの紙に書いているためサイズがまちまちだったり、まさに十人十色です。なかには物件台帳を作っていない者がいることまで発覚する始末でした。

 

それぞれの台帳を書くのはその物件を担当している営業マンなのですが、元来営業マンというのは自分の売上数字を上げることにこだわりがあります。そのため電話には誰よりも早く飛び付きますが、数字に直結しない書類作成の仕事や物件台帳の管理などはモチベーションが湧かず後回しにしてしまう傾向があるのです。

 

また古びた台帳は新しく書き換えて情報を整理してほしいものですが、支店長が指示しない限り誰かが気を利かせてやってくれることはまずありません。古い台帳に新しい情報を書き足していくことになり、ますます見にくくなります。

 

誌面は統一した仕様で物件情報を掲載するので、その基になる物件台帳の書き方も統一しておかねばなりません。そのため私は各支店から上がってくる資料を一つひとつ書き直してそろえていきます。また情報が古いまま更新されていないのは、これも私が確認し直さなければなりません。創刊号は56ページで252件掲載することになっていたため気の遠くなるような作業です。

 

これに辟易した私は物件台帳の仕様統一を全社員にお願いし、全面的な改良を図りました。具体的には、物件台帳をA4判3つ折りにして9㎝のマス目を2面印刷して間取図を書くことにしたのです。台帳は書きやすく破れにくいよう厚めの用紙を選び、さらに木造は白、鉄筋はピンクというように建物の構造別に4色の用紙を使い分け一目で識別できるように工夫しました。会社の命運がかかった大事業の肝となるものが物件台帳であり、その正確性が雑誌の生命線にもなるので私も必死でした。

 

一朝一夕とはいきませんでしたが、何度も粘り強く支店長に物件台帳の重要性を伝え、支店長から一般社員に仕様統一の徹底と常に最新情報に更新するよう話してもらうことで少しずつ浸透していきました。このとき物件台帳のフォーマットを統一していなければ編集業務が破綻していた可能性が高く、「アパートニュース」は37年も生き残ることができなかったに違いありません。

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賃貸仲介・管理業一筋50年 必勝の経営道

賃貸仲介・管理業一筋50年 必勝の経営道

加治佐 健二

幻冬舎メディアコンサルティング

メーカーから転職して1976年に28歳で営業職として入社し、充実した日々を送っていた筆者。 その矢先、突然社長と常務から呼び出され「東海エリア初の賃貸住宅情報誌の創刊」を命じられたのです。 そして右も左も分からな…

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