老人ホームには「介護マニュアル」は不要
老人ホームのパンフレットやリーフレットなどの宣伝広告ツールには、老人ホームの代表的な介護流派の総論、つまりモットーとかお題目とかが明記されているのが普通です。たとえば、『入居者に寄り添う介護を実践しています』とか、『入居者の尊厳を大切に、自分らしい生活を最後まで』とかさまざまです。ちなみに、私がかつて働いていた老人ホームのお題目は、「絶対にNOとは言わない」でした。
そして、この介護流派ダイジェスト版を現実的なものにするために、あるいは、よりわかりやすくするために、多くの老人ホームでは「介護理念」が明文化されています。思考の「見える化」です。そして、それらを実践していくために「介護マニュアル」とか「介護手順書」なるものが整備されているはずです。
つまり、介護マニュアルを見れば、本当に、介護理念を実践しようとしているのかどうかがわかります。介護マニュアルを確認すれば、本当に、そのお題目を実行するために老人ホーム全体で真剣に取り組んでいるのかがわかります。
多くの老人ホームのパンフレットに騙されてはダメです。心地よい響きのキーワードや文字が並んでいますが、言うのはタダです。本当に実践しているかどうかは、パンフレットを見てもわかりません。本当にできているかどうか、目指しているかどうかは「介護マニュアル」を確認する以外に方法はありません。
介護マニュアルに関し、私の考えを記しておきたいと思います。
私は、老人ホームには、介護マニュアルは不要だと考えています。介護マニュアルが存在しない老人ホームが、理想の老人ホームです。マニュアルなどなくても、各職員が各自で考え、自分のやるべきことをやる。これが理想です。その理由は、介護支援は、人に対する「思いやり」がすべてだからです。人に対する「思いやり」にマニュアルもくそもありません。ましてや教育などナンセンスです。
しかし、介護は、介護保険法の施行から20年以上の時がたち、介護は商売になりました。商売になったということは、介護が好きな人や向いている人だけで仕事をするわけにもいかず、向いていない人でも、一定のレベルまではできるようにしなければならないということです。したがって、そこには、教育や訓練という行為が発生し、介護マニュアルという仕事の手順を示した方針書が存在しなければならないということになるのです。
つまり、私は、介護マニュアルは必要だと考えています。しかし、介護マニュアルを突き詰めていけば、そのうち、不要になっていく。介護マニュアルを突き詰めて厳格に実践していけば、介護マニュアルがなくても問題なくホーム運営ができるようになるはずだと考えています。そして、多くの心ある事業者はそこを目指すべきだと考えています。
小嶋 勝利
株式会社ASFON TRUST NETWORK 常務取締役
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