(※写真はイメージです/PIXTA)

介護マニュアルなどなくても、各職員が各自で考え、自分のやるべきことをやる。これが理想です。その理由は、介護支援は、人に対する「思いやり」がすべてだからです。人に対する「思いやり」にマニュアルもなにもありません。老人ホームの裏の裏まで知り尽くす第一人者の小嶋勝利氏が著書『間違いだらけの老人ホーム選び』(プレジデント社刊)で解説します。

介護の質が落ちているのは本当か?

みなさんは、どちらの介護を望みますか? ちなみに、私が介護職員になった時は、次のような研修を受けました。一日中、オムツを装着し、トイレに行ってはならない、という研修です。時代背景だと思いますが、今、このような研修をしようものなら、なんとかハラスメントだと言われそうです。一日中、トイレに行けないので、用はオムツの中に用をたさなければなりません。

 

たしかに、尿取りパッドを装着しているので、衣類にまで尿が染み出ることはありません。しかし、明確に、はっきりと、濡れていることはわかります。正確に言うと、蒸れているというほうが正しいかもしれません。

 

私は、この研修を体験して、オムツ交換の大切さを学びました。たしかに、衣類は汚れません。しかし、不快感はあるため、この不快感から早く離脱するためには、速やかなオムツ交換が必要なのです。さらに言うと、一人ひとりの排泄リズム、排泄習慣を把握できれば、その時間にトイレ介助に入ることで、オムツを汚すことなく、生活をしてもらうことも可能です。

 

話はそれますが、私が現役の介護職員だったころは、オムツ代にうるさい家族も少なくなく、「なんで、今月はこんなにオムツ代がかかっているのか! トイレ誘導を初めにやっているのですか?」と指摘されたものです。

 

介護職員は、この家族のリクエストに応えるために、なるべく、汚したオムツの交換をしなくてもよいように、入居者の排泄リズムを把握し、排泄前にトイレ誘導を行い、トイレで排泄をさせるということを目指して仕事をしていました。当時は、たんに、家族のリクエストに応えるため、家族から怒鳴られたくないため、という意識が強かったと思います。

 

今の介護業界では、このような取り組みを「自立支援」といって、重要な介護だとしていますが、残念ながら、このような介護を実践できている老人ホームは、私の周囲では見当たりません。老人ホームの数が増えている中、その分、介護の質が落ちていることはしかたのないことなのかもしれません。

 

ちなみに、これからの介護は、このようなことをもっと、科学的な方法論を駆使して解決させるようになると思います。機械や装置を使って、個人の排泄周期を把握するということです。

 

私が介護現場にいた時も、ある大手企業から食事の後にカプセルを飲むと、そのカプセルが胃から小腸、大腸と便とともに移動し、今の便の位置を教えてくれるので、便が十分に下がってきたタイミングでトイレ誘導をしてはどうかというような提案を受けたことがあります。今は、もっと進化しているはずです。

 

介護流派の話に戻します。みなさんは、A介護職員とB介護職員と、どちらの介護職員に介護支援をしてほしいでしょうか? これが流儀の話です。そして、この流儀を組織全体のルールとして展開することを介護流派といいます。

 

つまり、介護流派とは、老人ホームに存在している「介護マニュアル」のことだと理解すればよいと思います。ちなみに、老人ホームを選ぶ際、「介護マニュアル」の確認をするという入居者や相談者は皆無ですが、実はこれが老人ホームを選ぶ際には重要だということになるのです。もちろん、老人ホームのことを勉強している人の場合は、ということになりますが。

 

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