(※写真はイメージです/PIXTA)

認知症高齢者を得意とするホームは、問題行動に対する知見が高く、問題行動をさまざまな経験値でねじ伏せていくことができるホームです。では医療的な処置やリハビリが得意かというとそうではないといいます。老人ホームの裏の裏まで知り尽くす第一人者の小嶋勝利氏が著書『間違いだらけの老人ホーム選び』(プレジデント社刊)で解説します。

認知症の親の排泄障害が入居のきっかけ

■転ホームの勧め

 

私が考える転ホームの一例を記しておきます。多くのケースでは、子世代が親を老人ホームに入れる決断をするタイミングは、認知症による問題行動が動機になっているはずです。細かい話をすれば、親の排泄障害も老人ホームへの入居を考えるスイッチの一つです。

 

しかし、逆に言うと、これ以外の理由で親の在宅生活に致命的に失望することは、それほど強くはないはずです。

 

したがって、認知症対応が得意なホームを探すということになるはずです。だからというわけではありませんが、多くの老人ホームは「認知症なら当ホームへ」という謳い文句がパンフレットに踊っています。

 

したがって、それほど困らずに老人ホームを見つけ出すことができるはずです。そして、認知症で問題行動がある親が老人ホームに入居さえしてしまえば、家族にとって、また、平穏な日常が戻ってくるのです。

 

ちなみに、多くの認知症高齢者の場合、短ければ数カ月以内、長くても数年内には、問題行動は消失していきます。理由は、ADLが徐々に低下していくからです。ADL(Activities of Dairy Living)とは、日常生活動作と訳されますが、簡単に言えば、日常生活を送るために必要な機能のことを言います。

 

排泄や入浴、食事、着替えなどが代表的な日常動作に当たります。それまで、元気にホームの廊下を徘徊していた認知症入居者が、やがて、足腰が弱くなり、車いすでの生活が始まります。さらに、ADLが落ちていくと、ベッド上で過ごす時間が長くなります。多くの高齢者は、このプロセスを踏んで、徐々に寝たきり状態になっていくのです。

 

ここで考えなければならないことが「転ホーム」の必要性です。つまり、認知症対応が得意なホームが、ほかの介護支援も得意だということではありません。たとえば、医療的な対応が苦手なホームなどたくさんあります。リハビリについてまったく知識のない老人ホームもたくさんあります。このことを理解することができるでしょうか?

 

認知症は病気です。だったら「医療対応でしょう」と言う人がいると思いますが、たしかに、認知症を根治させる行為は医療行為ですが、多くの老人ホームは認知症を根治させることに取り組んではいません。取り組んでいるのは、認知症の高齢者を「預かる」という行為だけです。

 

この「預かる」という行為に対し、ほかのホームとの差別化を図るために、認知症対応と称して手を替え、品を替え、さまざまなメニューを用意しているのです。

 

こんな話があります。認知症になると、食べたことを忘れ、何度も食べてしまう過食が有名ですが、逆に、食べるという行為を忘れてしまうこともあります。平たく言うと、食べ物、水分を一切口にしなくなるという行動です。当然、放置すれば、死んでしまいます。

 

多くのケースでは、病院に行き、点滴などで栄養や水分を補いながら、なんとか食事をしてもらう方法を考えます。このような場合、どのような医療機関を受診するとよいのでしょうか? 認知症は、精神科の領域です。

 

しかし、食べる、食べないは、内科の領域です。さらに食べるという機能に着目すれば、歯科という領域も考えられます。

 

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※本連載は小嶋勝利氏の著書『間違いだらけの老人ホーム選び』(プレジデント社刊)から一部を抜粋し、再編集したものです。

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