認知症の親の排泄障害が入居のきっかけ
■転ホームの勧め
私が考える転ホームの一例を記しておきます。多くのケースでは、子世代が親を老人ホームに入れる決断をするタイミングは、認知症による問題行動が動機になっているはずです。細かい話をすれば、親の排泄障害も老人ホームへの入居を考えるスイッチの一つです。
しかし、逆に言うと、これ以外の理由で親の在宅生活に致命的に失望することは、それほど強くはないはずです。
したがって、認知症対応が得意なホームを探すということになるはずです。だからというわけではありませんが、多くの老人ホームは「認知症なら当ホームへ」という謳い文句がパンフレットに踊っています。
したがって、それほど困らずに老人ホームを見つけ出すことができるはずです。そして、認知症で問題行動がある親が老人ホームに入居さえしてしまえば、家族にとって、また、平穏な日常が戻ってくるのです。
ちなみに、多くの認知症高齢者の場合、短ければ数カ月以内、長くても数年内には、問題行動は消失していきます。理由は、ADLが徐々に低下していくからです。ADL(Activities of Dairy Living)とは、日常生活動作と訳されますが、簡単に言えば、日常生活を送るために必要な機能のことを言います。
排泄や入浴、食事、着替えなどが代表的な日常動作に当たります。それまで、元気にホームの廊下を徘徊していた認知症入居者が、やがて、足腰が弱くなり、車いすでの生活が始まります。さらに、ADLが落ちていくと、ベッド上で過ごす時間が長くなります。多くの高齢者は、このプロセスを踏んで、徐々に寝たきり状態になっていくのです。
ここで考えなければならないことが「転ホーム」の必要性です。つまり、認知症対応が得意なホームが、ほかの介護支援も得意だということではありません。たとえば、医療的な対応が苦手なホームなどたくさんあります。リハビリについてまったく知識のない老人ホームもたくさんあります。このことを理解することができるでしょうか?
認知症は病気です。だったら「医療対応でしょう」と言う人がいると思いますが、たしかに、認知症を根治させる行為は医療行為ですが、多くの老人ホームは認知症を根治させることに取り組んではいません。取り組んでいるのは、認知症の高齢者を「預かる」という行為だけです。
この「預かる」という行為に対し、ほかのホームとの差別化を図るために、認知症対応と称して手を替え、品を替え、さまざまなメニューを用意しているのです。
こんな話があります。認知症になると、食べたことを忘れ、何度も食べてしまう過食が有名ですが、逆に、食べるという行為を忘れてしまうこともあります。平たく言うと、食べ物、水分を一切口にしなくなるという行動です。当然、放置すれば、死んでしまいます。
多くのケースでは、病院に行き、点滴などで栄養や水分を補いながら、なんとか食事をしてもらう方法を考えます。このような場合、どのような医療機関を受診するとよいのでしょうか? 認知症は、精神科の領域です。
しかし、食べる、食べないは、内科の領域です。さらに食べるという機能に着目すれば、歯科という領域も考えられます。