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高級老人ホームが居心地がいいとは限らない
これから話すことは、比較的経済的に余裕のある方に対するお話です。したがって、「私は、経済的に余裕はない」という方は、読み飛ばしていただいてもかまいません。なぜなら、経済的に余裕のない方は「選ぶ」という行為そのものを選択することができないからです。あなたは「このホームしか入れません」という話です。
老人ホームを選ぶ際、多くの方が老人ホームのスペックを気にします。さらに言うと、どのような立地にあり、どのような建物構造で、部屋の広さは何平米かを気にします。たしかに、これらのことは重要ですが、老人ホームを高齢者の居場所という視点で考えた場合、これよりも気にしなければならないことがほかにもあるということを理解してほしいと思います。
Aさんは大企業の元経営者でした。長女の勧めもあって、高級老人ホームに入居しました。数千万円の入居金を支払い、毎月の利用料金は大手企業の管理職の給料並みです。当然、このホームでは、ほかの一般的なホームと比較すると介護職員の配置数もすこぶる多く、毎日、上げ膳据え膳の対応です。
用事がある時は、ナースコールを押しますが、1分後には間違いなく介護職員が来てくれます。さすが、職員が多いホームです。挙げ句の果てには、呼んでもいないのに、介護職員がご機嫌うかがいに来るありさまです。「用がある時は呼ぶから、それまでは、一人で静かにしておいてほしい」と、ついつい声を荒らげてしまうケースもありました。
長女の気持ちは、「長年、仕事一筋で会社経営に取り組み、自分たち子供も何不自由なくというよりも、贅沢をさせてもらってきたという思いがあります。これからの余生は、お父さんは贅沢に暮らしてほしい」というものです。そして、さまざまな人から話を聞き、このホームの評判を聞きつけ、入居を勧めました。親孝行な子供たちです。
しかし、当の本人は、息苦しくてたまりません。たしかに、地位や名誉もあり、経済的にも数千万円のお金を預貯金から簡単に引き出すだけの財力がありますが、本人は贅沢な暮らしがしたいわけでも、高級な料理を毎日たらふく食べたいというわけでもありません。価値観は、いたって質素であり、自分のことは自分でやりたい人なのです。
長女の話によると、現役時代には、何度も、専属の運転手を先に帰らせて、自分で車を運転して帰ってくることがあったといいます。家族は、危ないから運転はしないでほしいと言いましたが、車は自分で運転をするものだと言っていたそうです。そのたびに、運転手から、自分の運転の仕方に問題があったのではないか? と相談を受け、とりなすのが大変だったそうです。