恐ろしい…多くの老人ホームが「要介護1より要介護5の入居者」を受け入れたいワケ

恐ろしい…多くの老人ホームが「要介護1より要介護5の入居者」を受け入れたいワケ
(※写真はイメージです/PIXTA)

老人ホームの売上は介護保険報酬です。要介護1の入居者よりも要介護5の入居者のほうが3倍程度、国と個人から受け取れる介護保険報酬が多くなります。老人ホームの経営の舞台裏とは。老人ホームの裏の裏まで知り尽くす第一人者の小嶋勝利氏が著書『間違いだらけの老人ホーム選び』(プレジデント社刊)で、良い老人ホームの選び方を明らかにします。

なぜ介護が大変な「要介護5」が好まれるか

少し一緒に考えていきましょう。仮に、売り上げの55%が人件費だとします。次に大きな費用は不動産費です。これを売り上げの10%とします。

 

さらに、給食委託費や水道光熱費などの運営に必要なコストが売り上げの10%かかるとすると、ここまでのコストは75%です。したがって、残りの25%が粗利益ということになります。当然、これ以外にも細かいコストがかかるため、最終的な利益は10%程度ではないでしょうか。先ほどから言っている人材の獲得経費などは、当然、25%の粗利益から支払われるはずです。

 

このように記すと、老人ホームビジネスって意外と儲かるのでは? と思われる方も多いと思います。しかし、現実はこうはいきません。少し、理解をしてもらうために詳しく説明していきます。

 

そもそも老人ホームの売り上げですが、その多くは介護保険報酬に左右されています。乱暴な言い方をすれば、要介護1の入居者と要介護5の入居者とでは、そもそも、老人ホームが獲得できる介護保険報酬自体が違います。この違いは3倍程度の開きがあります。

 

つまり、要介護1の入居者よりも要介護5の入居者のほうが3倍程度、国と個人から受け取れる介護保険報酬が多いということです。

 

だったら要介護5の入居者をたくさん集めて入居させれば儲かりますね、ということになりますが、計算上は、まったくその通りです。したがって、多くの老人ホームの場合、最終的な入居相談時に、1部屋の募集に対し3名の入居希望者が出現している場合、この要介護度を評価し、高い報酬を見込める入居者を優先して選んでいるはずです。建て前や言い分はいろいろあると思いますが、経済合理性を考えた場合、多くはこの論になるはずです。

 

しかし、現実は、そううまくはいきません。なぜなら、たくさん介護保険報酬を運んでくれる入居者の多くは、特殊な事情を抱えているケースが多く、その対応ができるか、できないかという問題が生じるからです。そして、それに対応するためには、もう一人職員が必要だということになった場合、人件費のほうが高くついてしまいます。

 

一例を記していきます。たとえば、胃ろうの要介護5の入居者がいるとします。次々に、胃ろうの要介護5の入居者を受け入れれば、たくさんの介護保険報酬を獲得することが可能です。

 

しかし、胃ろうの入居者には、それ相応の対応も必要になってきます。つまり、胃ろう開始前後の具体的な管理です。胃ろうは、食事の一環なので、多くのケースでは、一般的に食事をする時間とされる時間帯に始めます。つまり、同じ時間帯に胃ろうを流すことになるのです。

 

考えてみてください。介護職員の人数が足りないので、あなたの朝食は6時から、あなたは7時から、あなたは8時から、というようにしていると、しまいには、この食事は朝食なのか昼食なのかがわからなくなります。

 

したがって、多くの老人ホームでは朝食は8時から、昼食は12時からというように決まっているはずです。胃ろうも同じです。多くの老人ホームの場合、胃ろう対応可能定員が決まっているのが普通です。ニーズに合わせて胃ろうを受けていくと、どこかのタイミングで看護師など職員の手が足りなくなるからです。

 

しかし、永久に胃ろうの入居者がいるわけではなく、多くのケースでは、一定の期間で亡くなってしまいます。その時に、看護師に対し、胃ろうの入居者が少なくなったので、あなたは必要ありません、辞めていただいてけっこうです。とはいきません。アメリカならともかく、日本では文化的にも難しい話です。

 

つまり、老人ホーム運営とは、単純に多額の介護保険報酬を盲目的に求めていけばよいというものではなく、入居者の状態、そこから得られる介護保険報酬、そして対応可能な介護看護職員の採用という3つのバランスを考えて経営することが重要になってくるのです。

 

小嶋 勝利
株式会社ASFON TRUST NETWORK 常務取締役

 

 

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※本連載は小嶋勝利氏の著書『間違いだらけの老人ホーム選び』(プレジデント社刊)から一部を抜粋し、再編集したものです。

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