(※写真はイメージです/PIXTA)

受験人口が減少しているにもかかわらず、新しい大学、学部などの設置や私立大を中心とした入学定員の増加は続いていくとされています。その一方で、私立大3分の1が定員割れの状況だといいます。大学はどうなるのでしょうか。渡瀬裕哉氏が著書『無駄(規制)をやめたらいいことだらけ 令和の大減税と規制緩和』(ワニブックス)で解説します。

平均400万円かかる授業料は高いのか?

こうした自由化に対して、大学の学費が上がることを心配する人もいるでしょう。実は、学費についてはもっと別の考え方ができます。本当に優れた教育を提供できるのであれば、大学が学生に奨学金を用意すればよいのです。

 

現在の国の制度でも複数の奨学金制度がありますが、利用者が多いのは貸与型です。これを大学が行うというのはどうでしょうか。その大学の教育によって、卒業生たちには付加価値が付いています。さらに、学生たちが学費以上の価値を得られるのであれば、社会に出た後に回収できます。学部にもよりますが、私立大学の四年間の授業料は、平均で400万円です。回収ができないというのであれば、「400万円にもならないような教育を学生に4年間も施しているのですか?」となります。

 

この平均して400万円かかる授業料も、もっと安くできます。これだけの費用がかかりながら、大学の職員や研究者は文科省に対して提出する書類を作ることに大きな労力を割いています。そんなことはやめてしまって、大学は学生の方に顔を向ける。そして外部の企業や財団から、自分の研究でも共同研究でも、資金を獲得して高い水準の研究を行い、学生への教育に最新の研究成果を還元するように変えていく。

 

すると、現在重石になっている文科省への不毛な提出書類作成という大学側の経営コストを削減でき、より良い授業や研究を促進し、大学の収益も学費以外のところから得られるようになるのです。

 

2020年から世界中で流行している新型コロナウイルス感染症に対応するため、全国の大学がオンライン授業に切り替えています。これに対しても、通学をしないのだったらもっと学費を下げてほしいという声が上がっています。当然のことです。

 

入学金を除いて、学生が大学に支払う金額には大学の施設設備費も含まれます。このほかに実験や実習のある理系学部は文系学部よりも金額が大きくなるのが一般的です。「講堂で授業を行わないのに、その施設は必要なのか?」ということも、これからは考えていかねばならない部分です。

 

昭和31年(1956)の文部省令第二十八号「大学設置基準」では、大学が設置しなければならない施設について、細かく規定されています。こうした規定は、一種の規制です。大学の施設を作ることが目的なのではなく、質の高い授業を提供し、質の高い学生を輩出することが目的なのですから、形式の部分をもっと安く抑えられるのであれば、当然安く抑えることが経営上の判断になるのです。

 

大学生活の中で学生同士のコミュニケーションが必要だということもあるでしょう。でも、学生が集まれる機会を別途に大学がいくつか用意すればよいだけの話です。たとえば放送大学は、文科省に認可されている通信制の大学です。授業料が単位ごとに設定されていたり、全科の学生も一般の大学に比べてかなり安価な授業料で勉強することができます。

 

対面授業も単位取得のために義務付けられていますが、テレビやラジオの放送が授業のメインです。こうした大学でも、自分が履修している分野に関わらず、学生同士の多くのサークルで交流ができます。自分たちで集まることも、大学が特に場を提供することもありますし、サークル活動が大学の広報誌で紹介されることもあります。

 

何よりも、大学が用意する公共スペースとして在学生限定で利用できるウェブサイトの仕組みが充実しています。学習計画から大学事務局への相談、同じ授業を履修する人との交流に教授への質問までをカバーするサイトが用意されています。こうしたノウハウから他の大学で取り入れることのできる方法もあるでしょう。

 

授業自体が学生のコミュニケーションを満たすものだという形をやめて、機能を分化していけばよいだけの話なのです。より良い教育と学生へのサービスが提供できる大学は、当然、他の大学に比べてより優秀な学生を集めることができます。

 

「税金が入らないと授業料が得られません」というような大学に通うことはありません。無償で学生に通ってもらわなければならないような条件で提供される教育など、根本的に間違っています。これは、学生にとっても不幸ですし、何よりも日本国全体の損失です。

 

教育は国が保護しなければならないという発想を転換して、学問が本来あるべき場所に収まることで、学生にとっても社会全体にとっても大きな恩恵となるのです。

 

渡瀬 裕哉
国際政治アナリスト
早稲田大学招聘研究員

 

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※本連載は渡瀬裕哉氏の著書『無駄(規制)をやめたらいいことだらけ 令和の大減税と規制緩和』(ワニブックス)から一部を抜粋し、再編集したものです。

無駄(規制)をやめたらいいことだらけ 令和の大減税と規制緩和

無駄(規制)をやめたらいいことだらけ 令和の大減税と規制緩和

渡瀬 裕哉

ワニブックス

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