(※写真はイメージです/PIXTA)

受験人口が減少しているにもかかわらず、新しい大学、学部などの設置や私立大を中心とした入学定員の増加は続いていくとされています。その一方で、私立大3分の1が定員割れの状況だといいます。大学はどうなるのでしょうか。渡瀬裕哉氏が著書『無駄(規制)をやめたらいいことだらけ 令和の大減税と規制緩和』(ワニブックス)で解説します。

30年で300大学増設で定員割れの悲劇

こうしたシステムの狂いは、政府の政策にも現れます。

 

平成22年(2010)3月、高校無償化の法整備が行われました。公立高校の授業料無償化と、国立・私立高校の授業料を援助する高等学校等就学支援金制度による実質無償化の導入です。

 

さらに令和2年4月からは、高等教育の修学支援新制度として一定以下の所得世帯に対する大学無償化も始まりました。家庭の所得に応じて大学の入学金や授業料を減免する制度で、さらに学生の生活費を補助する給付型奨学金があります。

 

これは大学での学位取得が就職のための資格のようになっていることで、家庭の金銭的な事情で子供が大学に行けないのは困るからです。また、もうひとつは大学を作りすぎてしまったという国側の事情もあります。

 

日本の大学は国立大学を除き、文部科学省の設置認可を受けて設立されます。従来、教育の質が低下することを防ぐためとして、大学設置・学校法人審議会は新増設を抑制する方針をとってきました。平成3年(1991)、平成15年(2003)と2回にわたる規制緩和を経て、大学の数は1990年時点で500前後だったものが2020年には800校程度にまで増えたのです。

 

規制緩和は良いことなのですが、その結果として私立を中心に増えた大学や短期大学の中には、大学として成り立たないようなものも多くできてしまいました。大学教員の質も問題ですし、学生たちも勉強しに行っているわけではないような、「名ばかり大学」です。大学によっては、日本人の学生が集まらなくて、仕方がないので外国人留学生を大量に入れて何とか成り立たせるようなところもできてしまいました。実際に、私立大学の3分の1は定員割れを起こしています。

 

大学は就職のための資格を得る場になってしまいました。そして誰もが進学するようになったのですが、大学の定員に対して学生数は減少しています。大学も一度作ってしまったら今さら潰すわけにもいきません。だから教員や働いている職員の雇用を確保するための無償化でもあったのです。経営が成り立たないような大学を税負担によって生き残らせているのです。

 

大学の数を増やす本来の目的は、大学同士で競争させることです。競争に勝つために、大学がより質の高い教育と研究を目指すことで、優秀な学生が国内外から集まり、高度な教育を受けた人材を輩出して社会に貢献することになるのですが、実際にはそれがゾンビ化しつつあるのが現在の状況です。

 

この状況を誤魔化すために行っているのが無償化です。家庭環境や所得に限らずみんなが勉強できるようにするという建前は、一見良いものに見えるかも知れませんが、本質的には日本国内でもっとも高い水準にあるはずの教育を腐らせていくだけです。

 

直接的に大学に補助金を入れる形ではないので分かりにくいのですが、国民に利益があるように見えても実際には、大学は税金で支えてもらうので教育の質は経営とは関係なくなります。学生も「税金で自分の授業料が払われているのだから通っておくか」という意識になりますから、非常に質の低い教育だけが残ることになるのです。

 

政府が大学の教育に税金を入れ無償化するのだから、政府の監督によって教育の質は上がるのではないかと考える人もいるかも知れません。これは、まったく逆です。現在でも文部科学省は大学の授業内容やカリキュラムについて、きちんと運営されているか徹底的に監査しています。監督していてすら現在の状況なのですから、もはや形式主義です。大学側は教える内容を充実させて学生に満足してもらうのではなく、文科省の監査をクリアできればいいという頭になっているということです。

 

国内だけで見てもこの有様ですが、世界と比較するともっと愕がく然ぜんとする結果が出ています。イギリスの高等教育情報誌『Times Higher Education』が発表した2021年の世界大学ランキングでは、トップ20に日本の大学はありません。東京大学は36位、京都大学は54位です。トップ100で見ても、ランキングに入っている日本の大学はこの2つだけです。

 

同じくイギリスの世界大学評価機関、Quacquarelli Symondsが発表した最新のランキング「QS World University Rankings 2022」では、東大・京大をはじめ48大学がランクインしていますが、およそ半数が前年よりも順位を下げる結果となっています。

 

現在の日本の大学は、文科省に気に入ってもらえるかどうかが基準です。学生の側にも、社会の側にも向かずに、単に日本の高等教育を担っているだけなのです。また、文科省の外郭団体による監査のために、大学の職員や教員は、ひたすら役所に出すための書類づくりをしなければなりません。研究に時間を振り向ける労力を文科省に振り向けて仕事をしていることになります。これは国家的な不幸です。

 

問題を改めていくことで研究者は研究に力を注げるようにする、大学に通う学生のために質の高い教育を提供するなどの改革は、教育無償化という税負担化ではできません。もっと自由に大学側に経営させ、「潰れるところは潰れるしかないでしょう」というやり方の方が重要です。

 

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※本連載は渡瀬裕哉氏の著書『無駄(規制)をやめたらいいことだらけ 令和の大減税と規制緩和』(ワニブックス)から一部を抜粋し、再編集したものです。

無駄(規制)をやめたらいいことだらけ 令和の大減税と規制緩和

無駄(規制)をやめたらいいことだらけ 令和の大減税と規制緩和

渡瀬 裕哉

ワニブックス

現在の日本の政治や経済のムードを変えていくにはどうしたらよいのでしょうか。 タックスペイヤー(納税者)やリスクを取って挑戦する人を大事にする政治を作っていくことが求められているといいいます。 本書には「世の中に…

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