(※写真はイメージです/PIXTA)

スミソニアン博物館は魅力的なコンテンツを活かしたPRやショップ運営を含め民間企業の手法を取り入れながら、どう運営するかを議論しています。一方、「民営か、公営か」経営形態の議論に終始するなど日本の博物館の危機が叫ばれています。渡瀬裕哉氏が著書『無駄(規制)をやめたらいいことだらけ 令和の大減税と規制緩和』(ワニブックス)で解説します。

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博物館民営化で魅力的な存在になるか

図書館や大学といった教育に関係する施設のほかにも、学問や知識を得る、学びを得るための公共施設には博物館があります。様々な物品や資料を集め、収集物を保管・展示する施設の歴史は深く、紀元前まで遡ることができます。当時の成り立ちは、神様に捧げものをする神殿に由来し、日本の歴史の中で似たものとしては正倉院宝庫があります。

 

博物館の訳語が初めて登場するのは江戸時代末期、文久年間のことで、明治時代に入って西洋の文物が数多く取り上げられる中で博物館も広く紹介されました。

 

現在では、多くの分野にわたる博物館が世界中に設置されています。世界最大規模と言われているのがアメリカにあるスミソニアン博物館です。ワシントンD.C.に本拠を置くスミソニアン・インスティテュートによって複数の博物館・美術館などが一体運営され、この博物館群の収蔵数は1億4000万点を超えます。取り扱っている分野は歴史や生物・自然科学から科学技術、航空宇宙まで幅広く、19施設もの博物館群のほか研究センターは9施設を数え、学術書の出版も行っています。

 

日本国内でも、動植物園や水族館なども含めると博物館・博物館と同等の業務を行っている施設は5000施設以上あります。文化庁の統計では、圧倒的に多いのが歴史博物館、次いで美術館、科学博物館と続きます。

 

博物館の目的には、収集・保存・展示のほか調査研究や教育・啓蒙があります。たとえば、東京のお台場にある日本科学未来館は、「科学技術を文化として捉え、社会に対する役割と未来の可能性について考え、語り合うための、すべての人々にひらかれた場」という設立理念を掲げています(日本科学未来館 https://www.miraikan.jst.go.jp/aboutus/)。

 

現在は日常生活の中で様々なテクノロジーに囲まれて暮らしていますが、当たり前に身の回りにありながら、それらが実はどういうものなのかを意識したり科学に触れたりする機会は意外と少ないものです。そこで、日本科学未来館はそうした技術や自然科学を改めて客観的に知り、生活とのつながりを感じることのできる場を社会に提供しています。学習教材のような役割のコンテンツを通じて一般の人に学びを提供することや、専門家と一般の人をつなぐことのできる人材の育成が事業の柱となっています。

 

日本全国にたくさんあるこうした公共施設、学びの場にもそれぞれ目的が掲げられています。利用者は、普段得ることのできない知識や学びを得るための公共の場として利用します。博物館そのものの利用者数は年間で5000万人から6000万人で、博物館に類似する事業全部を含めた総利用者数の2割程度です。より多くの人に学びの場を活用してもらうためには、マーケティングや顧客満足度などの評価改善に民間のノウハウを取り入れることが重要です。

 

国公立の博物館の多くは、行政の外郭団体が運営しています。自治体によっては市営や県営など、行政が直接運営している施設も多数あります。

 

この運営が民間に開放されるようになったのは平成15年(2003)の地方自治法改正以降のことで、平成18年(2006)には国立博物館も規制緩和の対象となりました。公立図書館と同様の指定管理者制度やPPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ:公民連携)のような委託方式を使い、運営を民間に任せることが進められています。

 

行政の経費削減とともに、施設に新しいサービスを追加し、利用者が楽しめるような場にしようということです。

 

次ページ日本学術会議が提言した「博物館の危機」

※本連載は渡瀬裕哉氏の著書『無駄(規制)をやめたらいいことだらけ 令和の大減税と規制緩和』(ワニブックス)から一部を抜粋し、再編集したものです。

無駄(規制)をやめたらいいことだらけ 令和の大減税と規制緩和

無駄(規制)をやめたらいいことだらけ 令和の大減税と規制緩和

渡瀬 裕哉

ワニブックス

現在の日本の政治や経済のムードを変えていくにはどうしたらよいのでしょうか。 タックスペイヤー(納税者)やリスクを取って挑戦する人を大事にする政治を作っていくことが求められているといいいます。 本書には「世の中に…

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