(※写真はイメージです/PIXTA)

すべての企業は「体験企業」であり、「体験ビジネス」であるという。それはホテルであろうが、靴屋だろうが、銀行だろうが、業種に関係なく、優れた体験に必ず見られる5つの条件が存在するという。ダグ・スティーブンス氏が著書『小売の未来 新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」』(プレジデント社)で解説します。

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      消費者に必要な「S・U・P・E・R」な体験

      ③ 個別対応

       

      素晴らしい体験を味わうと、その日の体験がまるで自分のために用意されたかのような気分になる。これは、ブランドとの関わりのなかで、さまざまなかたちで実現可能だ。調査によれば、ショッピングの体験中に「自分のためだけに用意されている」という個別対応(パーソナライゼーション)を強く実感すると、予定外の商品をついつい買ってしまう客は2.1 倍に増え、買い物の支払額が予定よりも多くなる客は1.4培になり、顧客の継続利用意向を測るネットプロモータースコア(NPS)という指標1.2倍になることがわかっている。

       

      さらに、各種調査によると、同一クラスで最高水準とされる企業は、個別対応に多く投資しているだけでなく、将来的にも投資を大幅に拡大する意向も見せている。

       

      個別対応は、カスタマイズ型商品のようなシンプルなものから、リアルタイムのきめ細かい顧客データを取得・解析するような複雑なものまで、さまざまだ。たとえば、化粧品販売チェーンのセフォラでは、個々の顧客の購入履歴に基づいて商品提案のメールを送っている。ノードストローム百貨店では、顧客の各種サイズを記録している。ナイキは、スニーカーを自分でデザインできるし、高級ファッション通販サイトのネッタポルテは、過去の購入履歴に応じて優良顧客にギフトを贈っている。

       

      ④ 親密度

       

      脳には、海馬と呼ばれる領域がある。海馬は、短期記憶にある情報を長期記憶に移す仕事を主に担っている。本当に印象的な物事に遭遇すると、この仕組みが発動される。小売業者の仕事とは、顧客の頭のなかでこの仕組みが発動されるように後押しすることと言ってもいい。

       

      だからこそ、顧客の脳が店での体験を情報として受け取る際に、できる限り力強く印象的なものにすることが大切なのだ。したがって、できるだけさまざまな感覚を刺激しながら、親密度を高める道筋を確立しなければならない。

       

      たとえば、アウトドアウェアブランドのカナダグースは、カナダのトロントに「ジャーニー」という店をオープンさせた。店に入ると、同ブランドのトレードマークでもあるパーカ(高級ダウンジャケット)や帽子などのアクセサリーが迎えてくれるが、実はそれだけではない。

       

      店内に入ってすぐに細長い通路があり、足下を見るとフロアが氷原に似せて作ってあり、歩いていると自分の体重で今にも氷が割れそうなリアリティがある。その通路の先には360度の円形シアターが広がる。ここでジャーニーテラー(「旅の語り部」の意)と呼ばれるスタッフが出迎えてくれて、このスペースのガイド役を担う。マルチメディア体験が始まり、極限環境向けの用品を手がける衣料品メーカーとして始まった同ブランドの伝統が紹介される。

       

      私が見たときは、映像のナレーションをアイディタロッド(世界最長の犬ぞりレース)のチャンピオン、ランス・マッケイが担当していた。現在、マッケイは同社のブランドアンバサダーを務めている。シアターの次に向かうのは、店内に設置された低温室だ。

       

      内部のフロアには厚さ10センチほどの雪が積もっていて、カナダグース自慢のパーカを試着して、この低温条件下での着心地を確かめることができる。ウェアの試着がてら、低温室内でもう1つのメディア体験に案内される。それが終わると、必要に応じて担当のジャーニーテラーがパーカの採寸やオーダーを手伝ってくれる。オーダーした場合は、2~3時間後には発送処理が完了する。

       

      カナダグースが築き上げた環境の随所に、顧客との親密度を高め、関係性を深める仕掛けが用意されている。見るもの、聞くもの、感じるものがすべて感覚を刺激し、長期記憶への移行を促すのだ。

       

      「顧客との親密度を高める」という考え方は、デジタルの体験でも同じである。最近のウェブサイトは、デザインの要素を格子状に配置するいわゆるグリッドレイアウトがあふれている。アプリにしても、ブランド間で外観も機能も区別のつかないようなものばかり。こんなことをしていると、例の怪物企業やミニマーケット企業がいつ襲いかかってきても不思議ではない。

       

      デジタルの体験でも、印象や感銘を与えるクオリティを競い合う必要がある。オンラインで顧客が味わう体験に五感に訴える要素が多いほど、顧客の長期記憶という〝ファイルキャビネット〟に保管してもらえる可能性も高まる。音楽、サウンド、動画、画像、人間の顔や声などの要素はいずれも記憶に残り、思い出しやすくなる。

       

      ⑤ 再現性

       

      最後に、優れた体験は、デザイン面でも実用面でも再現性がある。本当に優秀な小売業者は、従業員のトレーニングだけでなく、リハーサルにも手を抜かない。そんないかにも作為的な、わざとらしい真似ができるかという声が聞こえてきそうだ。

       

      そういう方々にうかがいたいのだが、チケット完売の人気ブロードウェイミュージカル『ハミルトン』以上に作為的なものがあるだろうか。ミシュランの星つきレストランで味わう料理以上に作為的なものがあるだろうか。高級車以上に作為的なものがあるだろうか。その意味で「作為的」とは、「徹底的に作り込まれたもの」と私は理解している。用意周到に仕組まれたものということだ。どんな企業でも、できることならそうしたいのではないか。

       

      優れた体験に共通する5つの特徴であるサプライズ(Surprising)、独自性(Unique)、個別対応(Personalized)、親密度(Engaging)、再現性(Repeatable)の英語の頭文字を取って「S・U・P・E・R」と覚えてもいい。S・U・P・E・Rのある体験には突破力がある。S・U・P・E・Rのある体験は、注目を浴びる。最終的にS・U・P・E・Rのある体験は、勝利をつかむのだ。

       

      ダグ・スティーブンス
      小売コンサルタント

       

       

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        ※本連載は、ダグ・スティーブンス氏の著書『小売の未来 新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」』(プレジデント社)より一部を抜粋・再編集したものです。

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