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怪物企業には“ニューメディア”で戦え
頂点に君臨する怪物企業たちの「ニューリテール」戦略を相手に、どう戦えばいいのか。怪物企業は、エンターテインメント、購入形態、決済方式、物流システムをカバーする巨大エコシステムで顧客を囲い込もうと、体系的な手法を展開している。それがニューリテール戦略だ。怪物企業は、銀行、教育、金融から輸送、ヘルスケアに至るまで、あらゆるカテゴリーを手当たり次第に手中に収めており、結果的に消費者にとって生活に必要不可欠な存在になっている。
もちろん、大多数のブランドや企業にとっては、そのようなポジションに到達することなどないはずだ。その意味で、ニューリテール路線の戦いでは、怪物企業に対して勝ち目がない。だが、あきらめるのはまだ早い。ニューリテールがダメなら、私が言う「ニューメディア」に戦いの場を移してはどうか。こちらなら優位を築くことも不可能ではない。「ニューメディア」の意味を説明する前に、まず市場の地殻変動について押さえておこう。
■メディア自体が「店舗」になっている
小売り関係者なら、逆三角形のいわゆる「マーケティングファネル」(購買ファネル)の図はご存じだろう。一番上の「認知」から一番下の「購買」へと消費者を引き込む際、実店舗かオンライン店舗かを問わず、購買まで導くツールとして、私たちは長いことCMなどのメディアを活用してきた。ブランド各社は、少しでも早い段階で顧客を横取りし、自社のマーケティングファネルへ素早く送り込むために、有効なツールを開発したいと思うものの、なかなかうまくいかずに苦心している。
ところが、パンデミック後の世界では、少なくとも消費者目線で言えば、オンライン店舗か実店舗かを問わず、「メディアを駆使して客を店に連れてくる」という発想がもはや機能しなくなっている。CMを大量に流しても客が来ないのは、そのためだ。メディア自体が店舗になっているからだ。
ティックトックにしても、インスタグラムにしても、テキストメッセージにしても、フェイスブックの投稿にしても、すでにそこが「店」になっているのだ。勘違いしないでいただきたいのだが、広告をもっと打てと言っているわけではない。そういうことではないのだ。そもそも広告はこれ以上いらないのである。消費者が気になるようなコンテンツづくりに乗り出そうということなのだ。人々が望むコンテンツ、楽しみたいと思えるコンテンツである。思わず友達に教えたくなるコンテンツだ。
雑誌業界の収益モデルは広告に依存しているが、この点に光を当ててアンドリュー・エセックスは著書『The End of Advertising: Why It Had to Die, and the Creative Resurrection to Come』のなかで、次のように指摘する。
「私はカネを出すに値する内容のメディアとか、熱烈なオーディエンスに恵まれて、これがなくなったら困るとまで愛されているメディアについては、先行きを楽観視している」
なるほど、小売りも同じ視点で考えるべきだ。小売業者は、自社のわがままなニーズを満たすための広告づくりから脱却し、顧客のための独創的なコンテンツ、とりわけ熱烈なファンに応える独創的なコンテンツづくりに乗り出さなければならない。もしなくなったら顧客が心底残念がるようなコンテンツである。いよいよとなれば、有料でもほしいと思えるコンテンツである。
つまり、売り込みのメッセージを顧客に突きつけるという発想ではなく、しっかりと価値があって、顧客との距離を縮めるようなコンテンツや体験、イベントをオンラインで生み出すのだ。楽しくて、ためになって、刺激がある。そういうコンテンツでなければならない。
顧客に一方通行でまくしたてているばかりでは、そのうち顧客からそっぽを向かれても仕方ない。また、ユーザーのブラウザーにいくつも「クッキー」(ネット閲覧履歴などを保存するデータ)を残したり、リターゲティング広告やポップアップ広告を表示させたりしても、良好な関係づくりにはつながらない。
むしろ、ブランドは、顧客を中心に置いて、本当に独創的なメディアを生み出し、顧客に喜んでもらえるコンテンツ、何よりもインタラクティブ性のあるコンテンツを惜しみなく提供することが大切だ。