廃業する製菓会社から「タマゴボーロ」事業の継承を決めたことで、経営者として自信をつけた豆菓子店の2代目。やり手だった先代社長亡きあとも営業に奔走します。しかし、取引先で自社商品の扱いが次第に少なくなっていることに気づき、愕然。中小企業の社長の存在感を痛切に感じることになります。

「タマゴボーロ」の継承を決意

私の会社の状況を考えれば、バターピーナッツは苦戦していましたし、焼カシューも伸び悩んでいます。次の一手に困っている中で、タマゴボーロの継承は願ってもいなかったチャンスでした。売り上げは、当社が5億円ほど、ハシモトのタマゴボーロは3000万円ほどで、金額的には大きくありませんが、人気商品を継承できるのは魅力的でした。

 

ただ、やはり課題がありました。タマゴボーロと豆菓子は原材料が違い、製造方法も異なります。そのため、タマゴボーロを継承するのであれば、新たに生産拠点を構える必要があり、そのための資金も必要だったのです。

 

また、私の会社は豆やナッツの加工技術はありますが、タマゴボーロの原材料である馬鈴薯を使うノウハウはありません。事業としてきちんと確立させるためには、社内でタマゴボーロの生産技術を学び、定着させる必要がありました。

 

一方で、私はこの時、会社の方向性を定めるヒントをつかみかけていました。一つ目のヒントは、北海道産の原材料を使う菓子作りです。

 

当時の私は、ピーナッツにしても焼カシューにしても、商品の売り先のことばかり考えていました。消費者の市場を見て、どうやって売るか、何が売れるか、いくらなら売れるのかといったことを考えながら試行錯誤していました。

 

しかし、サプライチェーンの川上に目を向けると、北海道には農産物が豊富という長所があります。ピーナッツやカシューナッツのような外国産の原材料と比べると、安定して、かつ素早く仕入れることができますし、多少は天候の影響を受けるとしても、為替相場の変動によって収益が増減するリスクもありません。

 

その違いに気がついて、私は外国産の原材料を使うリスクを理解しました。同時に、北海道に根ざした企業であることの価値を認識し、道内企業であることが強みになると思ったのです。

 

2つ目のヒントは、ブランドを持つことです。私の会社の商品は飲食店や問屋向けに売りますので、実際にバターピーナッツや焼カシューを口にする最終消費者は、私たちが作っていることを知りません。一方、ハシモトのタマゴボーロは、橋本製菓が作っていることが分かります。商品そのものに知名度があり、商品が会社の認知度も高めています。その違いに目を向けて、私はブランド商品を扱うことに興味を持ちました。

 

ぼんやりとですが、「いつか社名を出すブランド商品を作れるかもしれない」と思い、この機会を生かして、ブランド商品の作り方や売り方を学びたいと考えたのです。

 

このような考えから、私はハシモトのタマゴボーロを、そっくりそのまま継承しようと決めました。機械と製法だけを継承するのではなく、ハシモトのタマゴボーロという商品名も、かわいらしいデザインのパッケージも、全てそのまま引き継ごうと決めたのです。

 

これが私が経営者として初めて行った意思決定でした。父は私の考えを尊重し、事業引き継ぎの資金を決裁してくれました。この資金を使って、豆菓子工場の隣接地を購入し、タマゴボーロ工場を建てました。現在は企業の合併やM&Aが日常茶飯事の時代ですが、経営者としてひよっこだった私にとって、この承継は大きな決断であり、大きな出来事でした。

 

事業を受け継ぐことに勝算があったわけではありません。しかし、結果として、タマゴボーロは私の会社の主力のロングセラーの一つとなり、収益基盤を支えていくものとなりました。

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小さな豆屋の反逆 田舎の菓子製造業が貫いたレジリエンス経営

小さな豆屋の反逆 田舎の菓子製造業が貫いたレジリエンス経営

池田 光司

詩想社

価格競争や人材不足、災害やコロナ禍のような外部環境の変化によって多くの中小企業が苦境に立たされています。 創業74年を迎える老舗豆菓子メーカーの池田食品も例外ではなく、何度も経営の危機に直面しました。中国からの…

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