(※写真はイメージです/PIXTA)

賃貸人は、築95年の物件を共同住宅に建て替えるため、住人に立ち退き交渉を進めたところ、同物件に60年以上住む貸借人がこれを拒否。裁判となりました。両者の事情を確認したうえで裁判所はどのような判決を下したのでしょうか。交渉賃貸・不動産問題の知識と実務経験を備えた弁護士の北村亮典氏が、実際にあった裁判例をもとに解説します。

「立退料215万円」の根拠

この事案では、立退料は215万円と判断されましたが、その根拠として、裁判所は以下のように述べています。

 

「本件解約申入れによって本件賃貸借契約が終了することにより、控訴人は、本件a室から退去し、新たに住居を確保する必要が生じるから、立退料の算出においては、控訴人が本件a室から家財を搬出して退去する費用相当額、新たな賃貸物件等住居を確保するために要する費用相当額、相当期間についての当該物件の賃料と控訴人が本件a室について支払っていた賃料との差額相当額を考慮するべきである。」

 

「①引越業者に対する聴取から本件a室からの動産移転費用は、10万円と査定されること

 

②新たな賃貸契約の仲介手数料を含め移転雑費として10万円程度を要すると査定されること

 

③本件建物の周辺地域においては本件a室と類似性の高い賃貸物件が存在せず、最も類似性の認められる賃貸物件は築年数が30年から40年程度の戸建住宅となるところ、最寄駅からの距離及び賃借物件の面積が本件a室と同程度の物件の成約事例の賃料水準は、月額平均8万6500円であること

 

④本件建物の周辺地域における③の類似物件の礼金は不要か賃料の1か月分が、敷金については賃料の2か月分が標準的であること

 

⑤東京都収用委員会の裁決等では、差額賃料の補償期間を2年6か月とするものがあることが認められる。」

 

「これらに、控訴人は高齢である上、Gによる日常生活の援助等が可能な範囲で賃貸物件を確保する必要があることから、賃貸物件の確保自体や新しい住環境への適応が通常よりも困難であることが予想されること、

 

控訴人は、長年、本件a室の補修を控訴人の費用で行っており、平成21年には約8万円を支出して天井を張り替え、平成22年8月には21万円を支出してトイレの改装を行っていること等、」

 

「本件に現われた事実を勘案すれば、本件解約申入れの正当事由を補完するための立退料は215万円とするのが相当である。」

 

老朽化を原因とした退去を求める場合に、老朽化の程度がどの程度必要なのか、立退き料はどの程度必要なのか、という判断が必要になりますが、これらの判断は裁判事例等から推測する必要があります。

 

本件は、特に立退料の算定方法を判断するための参考となるケースと言えます。

 

※この記事は、2016年10月7日時点の情報に基づいて書かれています。

 

 

北村 亮典

弁護士

こすぎ法律事務所

 

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※本記事は、北村亮典氏監修のHP「賃貸・不動産法律問題サポート弁護士相談室」掲載の記事・コラムを転載し、再作成したものです。

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