(※写真はイメージです/PIXTA)

高齢になってから、子どもとの距離に悩む人は少なくありません。頼りたい気持ちがあっても、子どもには子どもの生活があります。一方で、連絡しても返事がない、会うたびに傷つく言葉をかけられる関係なら、親の心がすり減ってしまうこともあります。老後を穏やかに過ごすため、あえて距離を置く選択をする人もいます。

一人息子、「いざというとき頼れる」と思っていたが…

勝男さん(仮名・75歳)は、妻を亡くしてから築年数の古い団地で一人暮らしをしています。年金収入は月18万円ほど。家賃は比較的安く、ぜいたくをしなければ暮らしていけますが、医療費や光熱費、家電の買い替えが重なると余裕はありません。

 

一人息子の直人さん(仮名・45歳)は、車で1時間ほどの場所に住んでいます。家庭があり、仕事も忙しいことは勝男さんも理解していました。それでも、妻が亡くなった直後は「何かあったら言って」と声をかけてくれたため、心のどこかで頼れる存在だと思っていました。

 

ところが、実際に連絡してみると、返事は遅くなりがちでした。電球の交換や通院の付き添いを頼みたいと思っても、「今週は無理」「そのくらい自分でできないの」と返されることが増えます。直人さんに悪意があったわけではないのかもしれません。しかし、勝男さんにはその言葉が強く残りました。

 

「迷惑をかけているんだな」

 

そう思うと、電話をかけること自体が怖くなっていきました。

 

総務省『家計調査(2025年)』によると、65歳以上の単身無職世帯では、可処分所得約11.8万円に対し、消費支出は約14.8万円となっており、平均で毎月約3.0万円の不足が生じています。勝男さんの年金月18万円は平均より多いように見えますが、一人暮らしでは固定費が大きく、古い団地での暮らしには小さな修繕や買い替えもつきものです。

 

決定的だったのは、勝男さんが軽いめまいで救急搬送されたあとでした。幸い大事には至らず、その日のうちに帰宅できましたが、不安になって直人さんに電話をしました。すると返ってきたのは、「本当に救急車を呼ぶほどだったの」という言葉でした。

 

勝男さんは何も言い返せませんでした。息子を責める気持ちより、自分の存在が負担になっているのだという思いが先に立ちました。

 

その夜、団地の小さな台所で湯を沸かしながら、勝男さんはスマートフォンを開きました。そしてしばらく画面を見つめたあと、電話帳から息子の番号を消したのです。

 

 

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