【関連記事】大家が入居者に「立ち退き料」を支払うのは、どのような時か?【弁護士が解説】
立ち退き交渉を進めるには「正当事由」が必要
築年数が長期間経過している賃貸住宅の所有者は、老朽化の程度が著しくなってきたときに、
という判断を迫られることになります。
しかし、いざ建替えをしようと決めたとしても、当該賃貸住宅にまだ入居者がいる場合、賃貸人側から建替えを理由に一方的に契約を解除できないので、退去してもらうよう交渉をする必要があります。
ここで入居者がすんなりと退去されれば良いのですが、様々な理由により退去を拒んだ場合、賃貸人としては、老朽化を理由とした賃貸借契約の解約の申入れを行うこととなります(解約の申入れを行うことにより、解約申入れ時から6ヶ月を経過すれば賃貸借契約は終了となります(借地借家法27条1項))。
しかし、賃貸人からのこの解約の申入れは、単にやれば良いというわけではなく、解約の申入れに「正当事由」がなければ、法律上の効力が生じません。
この点は、借地借家法28条が
「建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか、
建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。」
と規定しているとおりです。
では、「正当事由」が認められる場合とは、どのような場合を言うのか、と言いますと、本件のような建物の老朽化を解約の理由とする場合、老朽化だけでは正当事由は認められず、妥当な金額の「立退料」の提供が必要とされるケースが非常に多いです。
また、老朽化の程度がそれほどでもない場合や、賃借人にとって当該建物が必要不可欠な場合等には、立退料を提供しても正当事由が認められない、という裁判例もあります。
結局のところ、解約に「正当理由」が認められるかどうかは、主に
① 建物の老朽化の程度
② 賃貸人、賃借人双方の建物の使用を必要とする事情
③ 立退料の金額
という要素を総合考慮して判断がなされるというのが裁判実務です。
今回紹介する東京地裁平成25年12月11日判決の事例は、
・建物が大正4年築で、築95年を経過していたこと
・賃借人は60年以上居住しており、現在95歳と高齢であること
という事情があったケースです。
裁判所は、上記①、②、③の事情を総合考慮した上で、
立退料215万円の提供をすれば、賃貸借契約の解約を認める
という判断をしました。
ちなみに、この物件は、月額賃料が2万4960円でしたので、立退料は賃料の約86ヶ月分となっています。
杉原 杏璃 氏登壇!
「THE GOLD ONLINE フェス 2025 @東京国際フォーラム」
(入場無料)今すぐ申し込む>>