「困ったときは見てあげる」…善意から始まった孫の世話
和代さん(仮名・72歳)は、夫と二人で年金生活を送っています。夫婦の年金は月22万円ほど。住宅ローンはありませんが、貯蓄は約1,500万円。医療費や自宅の修繕、将来の介護費を考えると、決して余裕があるとは言えませんでした。
それでも和代さんには、大きな楽しみがありました。近くに住む娘夫婦の子ども、6歳の孫に会うことです。
「ばぁば!」
そう言って玄関に飛び込んでくる孫を見ると、和代さんの顔は自然とほころびました。
最初は、娘が残業の日に数時間預かる程度でした。
「今日だけお願いできる?」
「もちろん。困ったときは見てあげるわよ」
和代さんは、娘の役に立てることがうれしかったのです。孫と一緒に夕飯を食べ、絵本を読み、娘が迎えに来るまで遊ぶ。久しぶりに家の中がにぎやかになることも、悪くありませんでした。
ところが、次第に預かる頻度は増えていきました。
保育園の迎え。習い事への送迎。土曜日の昼食。娘夫婦が休日出勤の日の一日預かり。孫が小学校に上がると、学童に行きたがらない日も和代さんの家に来るようになりました。
「ばぁば、お腹すいた!」
ランドセルを置くなり、孫はそう言います。
和代さんは、冷蔵庫を開けて、急いでうどんやおにぎりを用意しました。孫はかわいい。けれど、毎回の食事やおやつ、飲み物、送迎の交通費は、少しずつ家計に響いていきました。
娘から食費を渡されることは、ほとんどありませんでした。
「今度まとめて渡すね」
「いつも助かってる」
そう言われるたび、和代さんは「いいのよ」と答えてしまいました。
総務省『家計調査(2025年)』によると、65歳以上の夫婦のみ無職世帯では、可処分所得約22.2万円に対し、消費支出は約26.4万円で、平均では毎月約4.2万円の不足となっています。和代さん夫婦の年金月22万円は、平均的な支出水準を下回っており、孫にかかる食費や交通費も無視できない負担でした。
ある日、夫が言いました。
「最近、うちの食費、増えてないか」
和代さんは、家計簿を見て黙り込みました。孫のために買った菓子パン、果物、ジュース、冷凍食品。ひとつひとつは小さな金額でも、月にすると数万円になっていました。
