「この家で最後まで」…そう思っていた4LDKのマイホーム
敏夫さん(仮名・73歳)と妻の恵子さん(仮名・71歳)は、30年以上前に購入した4LDKの戸建てで暮らしていました。子ども2人はすでに独立し、夫婦二人だけの生活です。
夫婦の年金は月19万円ほど。住宅ローンは完済していますが、固定資産税、火災保険、光熱費、庭木の手入れ、外壁や給湯器の修繕など、家を維持するためのお金は毎年のようにかかっていました。
「ローンが終われば楽になると思っていたんですが…」
敏夫さんはそう話します。
実際、現役時代は住宅ローンを返し終えることが一つの目標でした。子ども部屋があり、庭があり、親戚が集まれる広いリビングがある。その家は、家族の歴史そのものでもありました。
しかし子どもたちが家を出ると、使わない部屋が増えていきました。2階の子ども部屋は物置になり、掃除をする回数も減りました。恵子さんは階段の上り下りを避けるようになり、洗濯物を干すだけでも息が上がる日があります。
庭も、かつては楽しみのひとつでした。春には花を植え、季節の移ろいを感じながら手入れをしていました。しかし今では草取りだけでもひと苦労で、植木の剪定を業者に頼めば数万円の費用がかかります。
「家が広いって、若い頃はいいことだったのにね」
さらに、築年数が古くなるにつれて修繕の話も増えていきます。外壁塗装、屋根の点検、給湯器の交換、浴室の手すり設置。どれも先送りできないものばかりです。
総務省『家計調査(2025年)』によると、65歳以上の夫婦のみ無職世帯では、可処分所得約22.2万円に対し、消費支出は約26.4万円で、平均では毎月約4.2万円の不足が生じています。敏夫さん夫婦の年金月19万円はこの平均的な可処分所得を下回っていました。
娘に相談すると、最初は驚かれました。
「家を売るの? 本当にいいの?」
恵子さんも迷っていました。子どもたちの成長を見守ってきた家です。柱の傷、庭の木、古い食器棚。どれも簡単に手放せるものではありません。
それでも、敏夫さんはぽつりと漏らしました。
「最近は、家に住んでいるというより、家を維持するために暮らしている気がするんだ」
