あなたにオススメのセミナー
検討会における議論と争点
医療機関へのアクセスが制限されている場合の対面診療の補完――。日本医師会(日医)は2021年7月の記者会見で、オンライン診療に関して、こうした主張を展開した※。
※ 2021年7月5日『日医ニュース』における松本吉郎常任理事の発言を参照。
さらに会見では「安全性と信頼性を担保する上では、身近な地域のかかりつけ医とすることが大原則」「かかりつけ医をもたない初対面の患者さんにオンライン診療を行うことはリスクがあり、まずは対面診療を実施すべき」と述べた。つまり、「オンライン診療は対面の補完であり、かかりつけ医を中心に位置付けることが大原則」と主張したわけだ。
実は、こうした日医の考え方は以前から変わっておらず、オンライン診療を初めて保険診療に組み込んだ2018年度診療報酬改定でも、「顔色も息遣いも雰囲気も表情も、その時の状況も全て対面」「どんなにICTが発達しても、(筆者注:対面診療の)補完。医療の本質は変わらない」と述べていた※。このため、今回の指針案は日医の主張に沿っていると言える。
※ 日医の中川俊男副会長による発言。2017年1月11日の中央社会保険医療協議会総会議事録を参照。
では、こうした日医の主張をどう考えたらいいだろうか。筆者自身の意見を簡単に言うと、医療では「規制は少ないほど良い」という市場的な解決策は取りにくいと考えており、日医の主張に首肯できる面は大いにある。
その一方、「対面の補完」と限定的に考えるスタンスには疑問を持っているほか、曖昧な「かかりつけの医師」の機能を明確にする必要があると考えている。
なお、オンライン診療の拡大策に関しては、いくつかの論点がある。例えば、実施可能な医療機関が全体で15%程度にとどまっている一因として、対面よりも低いオンライン診療の診療報酬を挙げる指摘があり、実際に検討会でも「診療報酬との見直しの一体化をして進めるという視点がいい」という議論が出た※。
※ 例えば、2021年12月23日『日本経済新聞』、同年11月19日『読売新聞』。引用部分については、2021年6月30日の第16回検討会における一橋大学経済学研究科・政策大学院教授の佐藤主光構成員による発言。
規制改革推進会議が2021年12月に公表した「当面の規制改革の実施事項」でも、診療報酬の問題が言及されている。
さらに、「かかりつけの医師」以外が患者の情報に幅広くアクセスできれば、オンライン診療を拡大できる余地があり、そのためには情報基盤の整備も考える必要がある※。しかし、今回は患者―医師の関係に着目しつつ、オンライン診療を巡る論点を抽出する。
※ 例えば、電子カルテの共有や医療情報の集約化を図る観点に立ち、患者の情報を電子的に記録するPHR(Personal Health Record)や医療施設を超えて情報を共有するEHR (Electronic Health Record)の普及も欠かせない。