「何かあれば来てくれる」息子を前提にした暮らし
「これ以上は関われません。距離を置かせてください」
長男からそのメッセージが届いたのは、昨年の秋でした───。そう振り返るのは、関東近郊で暮らす石原さん夫妻(仮名・夫74歳、妻72歳)です。夫婦の年金収入は月18万円ほど。持ち家で住宅ローンは完済しており、家計は決して豊かではないものの、暮らしがすぐに立ち行かなくなるような状況ではありませんでした。
それでも、夫婦にとって息子の存在は大きかったといいます。長男は車で1時間ほどの場所に住み、月に一度ほど顔を見せてくれていました。重い荷物を運んだり、家電の設定を見てくれたり、庭木の手入れを手伝ったりすることもあったそうです。
「何かあれば、あの子が来てくれると思っていたんです」
その感覚は、いつしか夫婦の暮らしの前提になっていました。
電球の交換、役所から届いた書類の確認、スマートフォンの操作、通院の送迎。高齢になると面倒に感じることを、そのたびに長男に頼んでいたといいます。
ところが、依頼の頻度は少しずつ増えていきました。夫の膝痛で買い物が負担になり、妻も目の疲れから長時間の運転を避けるようになると、「ついでにこれも」「今度来るならあれも」と頼みごとが膨らんでいったそうです。
「家族だから、子どもに頼るのは自然なことだと思っていました」
そう話す妻に、長男は以前から「自分にも家庭がある」「毎回は難しい」と伝えていたといいます。それでも夫婦には、どこかで「親子なのだから、少しは面倒を見てくれて当然」という意識があったのかもしれません。
ちょうどその頃、夫が転倒して一時的に歩きにくくなったことがありました。通院の付き添いや買い物の手伝いをめぐり、長男とのやり取りが増え、夫婦の側も不安から言葉がきつくなっていったといいます。
ある日、妻が電話で「今週も来られないの? こっちは本当に困っているのよ」と言ったあと、長男から届いたのがあのメッセージでした。
「これ以上は関われません。距離を置かせてください」
短い文面でしたが、夫婦には十分すぎるほど意味が伝わりました。
「頭が真っ白になりました。怒りというより、急に心細くなったんです」
