オンライン診療の特例恒久化に向けた動向と論点…初診対面原則の是非が争点、曖昧な「かかりつけ医」をどうするか

オンライン診療の特例恒久化に向けた動向と論点…初診対面原則の是非が争点、曖昧な「かかりつけ医」をどうするか
(写真はイメージです/PIXTA)

パソコンやスマートフォンの画面越しに医師とやり取りするオンライン診療。忙しい人にとっては、仕事や家事等の空き時間に受診することができるため非常に便利です。しかし、医師にわたる情報がかなり限定されるため病気の見落としや誤診が懸念されています。本記事では、ニッセイ基礎研究所の三原岳氏がオンライン診療に関する論点や課題について解説します。 ※本記事は、ニッセイ基礎研究所の医療保険制度に関するレポートを転載したものです。

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    医療サービスの特性から見た論点

    サービスの追加購入を求められた時の対応

     

    まず、医療サービスでは「規制は少ないほど良い」という市場経済的な解決方法が取りにくい点を考察する。ここでは、医療サービスの特性を考えるための比較として、ファストフードで「ポテトは如何ですか」と店員から声を掛けられたケースを考える。

     

    この瞬間、消費者である私達はフライドポテトを食べることによる効能(満足度)、価格、味、健康への影響、ポテトの代わりに別の食べ物を食べる満足度などを瞬時に勘案し、フライドポテトを買うか、否かを考えている。

     

    計画経済よりも資本主義が優れているのは、それぞれの消費者が合理的な判断を下せる点にあり、こうした場面では食品規制などを除けば政府の規制は不要である。

     

    つまり、「(筆者注:市場の)働きにまかせてもらえさえすれば、(略)政府による規制やその他の活動よりも、消費者をはるかによく保護してくれる」という経済学の教科書的な考え方はダイレクトに適用されやすい。
    ※ 引用部分については、Milton & Rose Friedman(1980)“Free to Choose”[西山千明訳(2012)『選択の自由』日本経済新聞出版社p353]を参照。ミルトン・フリードマンは新自由主義的な経済政策の旗手だった経済学者。

     

    では、診察室で医師から「検査しますか」と薦められた時はどうだろうか。追加的なサービス購入を求められている点ではフライドポテトと同じなのに、患者は医師の薦めを断りにくい。

     

    これは患者―医師の情報格差が大きいため、「医師の薦めが医学的に妥当なのか」「どれぐらい費用は掛かるのか」「目の前の医師が提供する医療の質が高いのか」「検査に代わる代替手段が存在するのか」といった点を患者が理解することは難しく、患者は医師の判断を最後は受け入れるしかない点が影響している。

     

    こうした場面で「規制は少ないほどいい」という市場経済的な考え方は成立しにくくなる。

     

    医療制度の原点は患者―医師関係

     

    むしろ、医療は信頼財(credence goods)の側面を持っている。これは一般的に「消費した後でも品質評価が難しい財」を指しており、医療サービスに関して、契約の概念よりも信認(信任)関係が重視されるという社会保障法学の考え方とも符合している
    ※ 樋口範雄(1999)『フィデシャリー[信認]の時代』有斐閣では、幅広く信認関係が成立する一例として、患者―医師関係を挙げている。

     

    このため、医療制度を考える上では、患者―医師の信頼関係を増幅できるような制度改正を意識する必要がある。

     

    では、患者―医師の信頼関係はどう構築されるべきだろうか。まず、患者の立場で考えると、医師の専門技能や専門知識だけでなく、「どんな態度で接してくれるか」「不安や疑問に対して分かりやすい言葉で説明してくれるか」といった点が気になる。

     

    一方、医師も視覚、聴覚、臭覚、触覚などを通じて患者の状態を把握することが必要になる。その点で言うと、オンラインは空気感を把握できないし、触診などの情報も得にくいため、対面よりも取れる情報が少なくなる点は否めない。

     

    しかも医療の場合、患者の個体差が影響するため、この後に患者の状態がどうなるのか、事前の把握は難しく、患者だけでなく医師さえも不確実な意思決定に曝されている。このため、対面診療よりも入手できる情報が限られるオンライン診療について、医師が安全性を意識するのは当然と言える。

     

    実際、検討会でも現場の中堅医師が「全くの初診、初めての患者さんに関しては、これは正直な感想で申しまして、怖いなということがございました」

     

    「患者さんの言葉で、例えばこれはいつもと同じような感じですよというせき払いであっても、この方がいつもせき払いをされている方なのか、今、本当に何かしらの症状でせきをしているのかを、患者さんの言葉だけで、客観性であるとか、または患者さんのいつもと比較することができない」と述べていたことは注目に値する。
    ※ 2020年11月2日の第11回検討会における多摩ファミリークリニック院長の大橋博樹構成員による発言。

     

    このため、医療サービスの特性を踏まえれば、「初診は対面で」「かかりつけ医を中心に」という日医の主張は一定程度、正しい内容を含んでいると考えられる。

     

    対面補完の考え方の是非

     

    しかし、オンライン診療を「対面の補完」と限定的に考える必要性を特に感じない。例えば、慢性疾患で状態が安定している患者への対応とか、薬の処方を受けるだけの診察であれば、オンライン診療による状態確認で済む可能性が高い。

     

    さらに、医師が処方しなくても繰り返し使用できる「リフィル処方箋」や薬剤師による「オンライン服薬指導」などを絡めれば、患者のアクセス改善だけでなく、医師の負担軽減なども図れる。このため、オンライン診療を「対面の補完」、つまり「対面の劣化版」のように限定的に考える必要も感じない。

     

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    本記事記載のデータは各種の情報源からニッセイ基礎研究所が入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本記事は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
    ※本記事は、ニッセイ基礎研究所が2021年12月28日に公開したレポートを転載したものです。

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