なぜ大学病院なら安心?日本人が大病院を受診したがる理由 (※画像はイメージです/PIXTA)

患者は何を理由に病院を選択しているでしょうか。医師の評判、家族や友人の推薦は重要な情報源だといいます。その一方で、結果として軽い病気であっても不安から、高度な検査や治療を求める傾向があるといいます。※本連載は杉本ゆかり氏の著書『患者インサイトを探る 継続受診行動を導く医療マーケティング』(千倉書房)の一部を抜粋し、再編集したものです。

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医師の評判、家族や知人は重要な情報源

医療においては医師だけではなく、患者も治療方針を選択する必要があり、多くの意思決定が行われている。例えば、患者や患者の代理人は、医師の治療案を受け入れるか否かを決定しなければならない(菊池・都築,2013)。患者にとって、いつ、どこで、どのような治療を受けるのか、選択は多い。

 

なお、治療法の選択について、米国医療の質委員会の報告によると、患者の多くは治療の決定に参加したいと考え、代替可能な治療法について知りたいと考えている(Committee on Quality of Health care in Amerca, and Instituteof Medicine Staff, 2001)。

 

次に、患者の医療機関選択に関する文献と、患者の治療選択に関する意思決定の文献をレビューする。

 

(1)患者は、どうしてその医療機関を選択するのか?

 

患者は、何を理由に医療機関を選択するのだろうか。Victoor et al.(2012)は、医師の評判、家族や知人、友人の推薦は、受診先選択の重要な情報源であることを示している。また、患者は患者に耳を傾け、患者と良好な関係を築き、親しみやすく理解しやすいコミュニケーションスタイルを持つ医師を好むことを指摘している。

 

山本(2002)によると、患者は、医療機関の規模、設備、評判、医師に対する個人的な信頼等に期待して受診先を選択する。また、診療機関の規模が一定の場合、近隣の診療機関のなかで評判が最も良い医療機関を選択することを明らかにしており、評判は重要な受診先選択の要因であることを指摘している。

 

我が国の医療機関選択は基本的に自由であり、その理由は、医療制度が関係している。日本では、自由に医療機関を選択し受診できるフリーアクセス制が採用されている。

 

そのため、患者は、軽度の病気でも高度な検査や治療を求めて病院の受診を望むケースが多く、病院本来の機能が阻害される一因となり問題視されている。その1つは、病院外来での待ち時間の増加があり、外来患者への心身の負担に影響を与えていることから、厚生労働省は問題解決を模索している(杉澤・西,1995)。

 

一方、海外は日本と医療制度が異なっており、例えば、英国のNHS(National Health Service)では、「かかりつけ医」であるGP(General Practitioner)の紹介なしで病院を受診することはできない。したがって、日本と海外では患者の受診選択行動に違いがあり(山本,2002)、研究の単純な引用には課題を残す。

 

杉澤・西(1995)は、医療機関選択を探るため、被験者1,326名によるアンケート調査を行っている。慢性疾患の患者を対象に、初診時と治療時の医療機関選択行動を把握した。その結果、慢性疾患の治療において、自宅近くに診療所と病院がある場合と診療所のみがある場合では、診療所を選択する傾向がみられた。

 

一方、健康度の自己評価が低い者、診療所が近くにない者、非就労者は、病院を選択する割合が高かった。これは、病気が重いと自己判断をした患者は、万が一のことを考えて病院を選択していることが推測できる。また、初診の場合、最新の治療技術への関心は、病院選択と有意な関係にあることが指摘された。

 

高齢者が大病院を選択する要因解明の研究では、2,447名を対象とした調査が行われた。その結果、多くの病気を持つ場合、高齢者はどんな病気やケガでも大病院を選択する傾向が有意に示された。これは、受診の利便性を考えて、病気ごとに医療機関を変更するリスクを軽減することが目的だと考えられる。

 

また、急激に症状が悪化することへの不安から、高齢者は高度な診断機能が整った大病院を選択することが推測できる。さらに、かかりつけ医がいない場合、および、徒歩圏に大病院はあるが診療所がない場合では、高齢者はどんな病気やケガの時でも大病院を選択することが明らかになった(杉澤ほか,2000)。

 

中島(1998)は、患者が長い待ち時間にもかかわらず、大病院へ行く行動について、不確実な状況における患者の病院選択行動としてゲーム理論を用いて説明した。

 

その結果、患者は、重症化する可能性の大小がわからないことと、小規模医療機関が必ずしも患者にとって最適な行動をとらない可能性があるため、長時間待たなければならない大病院へ行くことを選択する。また、待ち時間の機会費用が大きくなる時は、小規模医療機関を選択することを報告している。

 

なお、近年、厚生労働省は、病院集中の抑制策として、病院と診療所の機能分化を図っている。2016年度診療報酬改定では、紹介状なしの大病院受診での定額負担金について、特定機能病院・一般病床500床以上の地域医療支援病院を対象に義務化された。2018年度改定で、許可病床400床以上の地域医療支援病院にも拡大された定額負担は、2020年度改定で、さらに対象が拡大されることになった。

 

これは、紹介状のない初診患者が大病院を受診する場合、多額の定額負担金を義務付ける制度であり、大規模病院への集中を緩和させるための対策である。この政策により、大病院への偏重は軽減されている。長期的定期的受診が必要な慢性疾患患者の増加、医療政策の両面から考えても、受診先選択の傾向は変化している。

跡見学園女子大学兼任講師
群馬大学大学院非常勤講師
現代医療問題研究所所長

中央大学大学院戦略経営研究科修士課程(MBA)を首席で修了、同大学院同研究科博士課程にて博士(経営管理)取得。医療福祉専門学校の学校長を経て現職。医師会・医療機関・製薬会社等で講演活動を行う。専門は医療マーケティング論、マーケティング論、企業マネジメント論など。

著者紹介

連載「患者インサイト」患者の深層心理がわかれば医療現場が変わる

患者インサイトを探る 継続受診行動を導く医療マーケティング

患者インサイトを探る 継続受診行動を導く医療マーケティング

杉本 ゆかり

千倉書房

「患者インサイト」とは、患者が心の奥底で考えている本音であり、医療に関する意思決定である。この患者インサイトを明らかにすることで、患者への情報提供や情報収集など、患者との効果的なコミュニケーション理解できるよう…

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