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ドクターショッピングは外来診療で起こる
患者は、何かを原因として、受診先を変える、スイッチング行動を起こすことがある。この患者のスイッチング行為であるドクターショッピング行動とは、同一の病気の治療において、医師の紹介なしに患者の自己都合により医師を複数交代し、転院による継続受診の中断や重複受診をする行為である(杉本,2019)。
ドクターショッピングに関する定義は、文献により異なることが指摘されているが(Lo et al., 1994)、多くは、同じ病気のエピソード中に、担当の医師による紹介なしに、医師を交代することと定義づけられている(Sansone &Sansone, 2012)。経済同友会(2015)でも、患者が医療機関を渡り歩く行為として問題視している。
このドクターショッピング行動は、様々な問題を引き起こす。患者の定着による経営の安定を図るためには、ドクターショッピング行動に関する患者インサイトを探る必要がある。
本稿では、先にドクターショッピング行動の現状と問題点を整理する。続いて、ドクターショッピング行動の先行研究を整理し、スイッチする患者のインサイトを探る。
1.ドクターショッピング行動の現状
治療の結果が患者の期待に添えない、医師の対応に不満があるなどの場合、ドクターショッピング行動をとる傾向が伺える。例えば、不妊治療の患者560人を対象とした調査では、転院経験者は343人で61.3%を占める。検討したことがある患者は34人(6.1%)、現在検討中の56人(10.0%)を含めると433人が転院した(したい)結果となり、その割合は77.4%を占める。
転院の具体的な理由は、第1位に妊娠しなかったから、第2位に医師の対応がよくなかったから、第3位にやっていない治療を受けたかったからであった(松本,2014)。季節性アレルギー性鼻炎症状の患者2,702 名へのドクターショッピング行動に関する調査では、別の耳鼻科からの受診先変更者は41.3%、別の内科から受診先変更者は15.2%であり、56.4%が転院を経験していた(株式会社QLife,2017)。
不妊治療では、妊娠しない=期待どおりの結果が得られないことであり、季節性アレルギー性鼻炎では、特に花粉症シーズンの困難さから、改善されず処方薬に不満がある=期待どおりの結果が得られないことから、患者の期待と現実の差から起こる期待不一致が転院の最大の理由であった。いずれも多くの患者がドクターショッピング行動を起こしている。
厚生労働省の平成29年受療行動調査によると、病院の外来患者における、最初の受診場所の報告では、42.4%が最初は他の病院や診療所を受診しており、現在は転院先で治療を受けていることが報告されている(厚生労働省保健統計室,2019b)(図1)。この調査の不明な点は、特定機能病院や大病院の場合、以前通院した経験があっても、新しい病気にかかり受診する時は、まず医療機関からの紹介が必要となる。
しかし、特定機能病院や大病院に最初から受診している患者がおり、その点の経緯は不明である。また、最初は他の病院を受診、最初は診療所・クリニック・医院を受診しているなど、受診先を変えている患者については、どのようなプロセスで他病院から転院したのか特定はできず、自己都合での転院か紹介による転院かは不明である。そのため、すべてがドクターショッピング行動とは言えないものの、多くの患者が病院をスイッチしている現状が伺える。
なお、この調査は病院が対象であり、診療所を対象とした調査は行われていない。医療機関のスイッチは、基本的に外来診療で起こる行為である。病院に比べて診療所は多くの外来診療患者を抱えており、ドクターショッピング行動の比率はさらに高まることが推測できる。