実家を継いだ長女は独身
桃子さん(74歳)が相談に来られました。桃子さんの姉(80代)は8人きょうだいの長女。父親が早く亡くなったので、母親を助けるために早くから働き、7人の弟や妹の面倒を見てきたといいます。そのためか、結婚する機会をなくし、ずっと実家で母親と暮らしてきました。実家は主要都市にあり、40坪ながら角地で最寄り駅にも近く、便利なところです。
80代半ばの姉は、現在一人暮らしですが、ヘルパーさんのサポートもあるので、問題なく生活できています。桃子さんは姉の遺言書について不安があるので見直したいと相談に来られました。
母親が亡くなったときにきょうだいがまとまらずに苦労した
母親は15年前に亡くなりましたが、そのときにきょうだいでもまとまらずに苦労したといいます。母親の財産の大部分は自宅の土地、建物ですが、半分は長女名義でした。桃子さんが幼いころは貸家住まいでしたが、ずっと働いてきた母親と姉がお金を貯めて、ローンを借りながら中古の一戸建てを買ったのが30年前で、不動産価格が下がったときだったようです。
母親が亡くなったとき、遺言書はなかったので、きょうだい8人で遺産分割協議をしなければなりませんでした。
同居してきた長女が司法書士に依頼して、自分の名義に変えるべく、手続きをしたのですが、簡単ではなく苦労をしたといいます。同居する長女が母親の面倒を見て、自宅の購入にも貢献してきたことは明らかなのに、それでもきょうだいたちは快く協力してくれずに一言、二言あったようです。
長女の相続人は10人
母親の相続から15年経ち、次は長女の相続の順番となります。長女の他のきょうだいは兄が3人、姉が3人の三男五女の8人で、桃子さんは五女。そのうち、長男、次男が亡くなっていて、代襲相続人もいますので、長女が亡くなったときの相続人は10人となっています。
母親の相続で苦労をした長女は、今度こそ揉め事にならないようにしたいと、名義替えの手続きをしてくれた司法書士に相談して、公正証書遺言を作成したのです。
長女といちばん親しい関係にあるのが五女の桃子さんで、桃子さんの夫や2人の娘とも行き来をしてきました。そうしたことから、長女は桃子さん家族に財産を託したいと決めてくれて公正証書遺言ができあがったのです。
不安が出てきた
長女が公正証書遺言を作成してくれて、やれやれと思うところですが、ふと遺言書の内容がよいのか不安になってきたということで、相談に来られたという事情でした。
遺言書の内容を確認すると「自宅は桃子さんが相続。金融資産は桃子さんと夫、2人の娘で4分の1ずつ」としてあります。また遺言執行者は姉よりも年上の80代の司法書士になっているのです。
不安項目:
〇自宅は桃子さんが相続→自宅があるため小規模宅地等の特例は使えない
〇姉と桃子さんは12歳違いで、どちらが先に亡くなるかはわからない
〇桃子さんの夫は80代だが、姉より先に亡くなるかもしれない
〇遺言執行者が高齢であり、桃子さん家族と面識はない
以上のことから、長女よりも桃子さんや夫が先に亡くなった場合、亡くなった人に相続、遺贈させるとした財産は遺言書では手続きができず、あらためて相続人全員で遺産分割協議をする必要があり、長女の意思のとおりにはできない可能性が高いと言えます。
このままでは、不安要素が多いため、遺言書の作り直しを提案しました。