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在宅医療の新しいビジネスモデル
■間嶋院長が目指すこの先の道
間嶋院長が目指す理想の世界はまだまだ遠く、いまでもアイディアが湧き続けている。穏やかながらも熱量は上がっている。その姿勢は休まず止まらない。
間嶋院長は、「在宅医療の世界をつくるにあたり、ビジネスモデルはない。患者の視点に立ち、何が必要かを考え、医療体制を整えるだけだ。現段階で1,000人の在宅患者を支えているが、これでは必要とする患者に対応しきれない。今後はさらに拠点を増やし、医療の効率を上げる必要がある。在宅のエリアを考えると、効率的に巡回するためには分散する必要がある。
また、想定していたよりもスタッフが休める居場所が少ないため、環境を整えるためにも、これらを拡充する必要性を課題としてあげている。
さらに、多くの在宅患者の医療管理を適切に実施するためには、なお一層効率を高め、効果的な施策をとる必要がある。これらを実現するためには、ICT(Informationand Communication Technology: 情報通信技術) の活用とRPA(RoboticProcess Automation)を活用し、ソフトウエアロボットによる自動化を推し進める必要がある。」と語る。
AIを使った提案機能の活用も検討している。昨今、各企業ではテレワークが推進され、オンラインによる会議が導入されている。いまや、大学でもオンライン授業が行われている。働き方改革も叫ばれるなか、企業の取り組みは確実に変化している。新しい時代は否応なく訪れており、何を取り入れるか、どう実現するかにより、ビジネスが変わってくる。確かに、マンパワーで医療サービスをフルカバーするのは限界がある。
近年、医療界でもオンラインによる診察や服薬指導などが進められている。新しい技術を活用し、効果的な在宅医療を目指すことは、1つのビジネスモデルをつくることにつながる。スタッフは、「間嶋院長は、新しいことへの挑戦と変化をし続ける強さがある。」と話す。ビジネスモデルのない在宅医療の世界において、どのような新しいビジネスモデルをつくり上げるのか、楽しみである。
■本事例からの学び
(1)事例におけるユニークな視点
●医療経営においても経営戦略とリーダーシップは重要である
診療所の明確な経営戦略と間嶋院長の強いリーダーシップは、組織が成長するための重要な要素となっている。榊原(2002)は、戦略とは、組織がその目標や目的を達成するために行う基本的意思決定である。
その主な内容は、第1に、「今、どのような事業を行っており、今後どのような事業を行おうとしているのか」を明確にする。第2に、ヒト(人的資源)、モノ(物的資源)、カネ(財務的資源)に加え、知識、情報、スキル、ノウハウ、技術、信用などの情報的資源を活用する。第3に、独自のスキルや資源の展開を通じて、既存のライバルを超えた優位性を構築し維持することであり、これらを実現できる企業のみが存続・成長できることを指摘している。
わかさクリニックは、「医療と介護の一体化を目指し、お互い支えあって生きてゆく『まち』を実現させる」を理念に掲げ、『まち』づくりを実現するための経営戦略として、外来診療、在宅医療を提供し、地域貢献・地域連携活動の拠点であるオレンジタウンを運営している。これらは、単に診療所の規模を拡大させることに注力しているのではない。
医療の枠組みに捉われることもなく、地域に住む人々や暮らしに視野を広げ、まちづくりを考えて、まちの高齢者をはじめとする人々の場をつくり、コミュニティをつくる。その延長線上に在宅医療が存在している。まちづくりのために、スタッフの専門性や技術、スキルなどを最大限に活かし、在宅医療を大規模かつシステマチックに展開している。これらは他の医療機関が容易にまねできることではない。
また、榊原(2002)は、リーダーシップとは、一定の目標達成に向けて集団に影響を与える能力であり、リーダーとノン・リーダーの違いは、野心やエネルギー、誠実さ、自信、知性の違いであることを示している。まさに、間嶋院長が実現しようとする、その野心やエネルギーと誠実さによるリーダーシップは集団を機能させており、スタッフにポジティブな影響を与えている。