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在宅医療患者1000人超、看取り200例以上
■在宅医療の運営
本稿の特徴的なケースとして、「在宅医療部門」が挙げられる。ここでは在宅担当医師による診察に加え、居宅介護支援事業所による在宅介護の支援と、訪問看護ステーションによる療養生活のサポートが行われる。
高齢化が進み地域包括ケアが推進される時代でありながら、往診を含めて在宅医療を提供している診療所は決して多くはない。また、その対応力には差が出ているのが実情である。例えば、全国調査によると、在宅療養患者数について、1施設当たりの患者平均は32.4件(人)である。1~5件は32%と一番多く、100件以上を担う施設は6.8%にとどまる。その内、500件以上を担う施設は0.5% と極わずかである(日本医師会総合政策研究機構,2017)。
看取りを担う施設に至っては、平均3.3件と少ない現状にある。また、近年では認知症の患者が増えており、家族が支える負担は大きく、社会でどうサポートするかは大きな問題である。
患者やその家族による在宅の要望は様々である。例えば、体力が弱くなり通院が難しくなった方、高齢の夫婦2人暮らしで、お互いに体が不自由で通院が難しい方、仕事があり家族を病院に連れていけない方、認知症の家族をみる苦労が大きい方、重い病気で入院中だが最期は住み慣れた我が家で家族と共に過ごしたい方などが挙げられる。
初めて受ける医療が在宅のケースもあるという。患者自身、患者の家族、それぞれが様々な思いを持ち、在宅医療を求めている。高齢者の医療において重要なことは、患者自身の治療に関する意思決定である。本人の意向はもちろんのこと、家族の思いをくみ取る必要があり、場合によっては遠い親戚が意思決定に加わるため、こちらから常に連絡をとることが大切だという。看護師、ケアマネは患者の家族や親戚ともコミュニケーションをとり、支援を続けている。
これらの支援を行う中枢である在宅医療課では、毎朝オペレーションルームで行われるカンファレンスで、当日の巡回について詳細に協議される。内容は、患者の現在の状況、治療や医療管理などの情報をはじめ、その家族へのケアや情報提供である。これらの情報は在宅医療課だけではなく、総務部門など管理部門を含めて、在宅に関わる全スタッフで共有することが徹底されている。
わかさクリニックの在宅医療部門が担う患者は、1,000人(件)を超えている。その点でも、わかさクリニックの大規模な状況が伺える。この1,000人の患者のうち700人は契約している老人施設にいる患者であり、300人は一般の自宅に住んでいる(居宅)患者である。近年、症例で増えているのは、認知症やがんの末期患者の方だという。居宅の300人のうち、50人はがん患者であり、緩和ケアが行われている。
いまではがんの看取りが多く、年間200例を看取っている。全国平均の3.3件と比べると、多くの看取りを担っていることが伺える。在宅医療部門では、現段階で600人程度のターミナル期のがん患者を診ており、その半分は病院に入院し最期を迎えるという。このボリュームの在宅患者を、在宅医療担当医と専属スタッフにより、休日・夜間、緊急時を含めて24時間体制で診療している。
在宅支援は、医師、看護師、療養に関わるスタッフが3人体制で患者の家を訪問する。1日に担当する患者は、個人宅6、7件、老人施設の患者は20人ほどである。患者の多くは、出身の医科大学、病院、診療所からの紹介患者である。間嶋院長は、在宅の患者はますます増えており、何よりも医療の質を落とさないことの重要性を説いている。
特に、重症化した患者への対応は、オールラウンドの医師と専門性の高い医師との両方の体制がないと難しいことを指摘している。確かに、患者の自宅で質の高い医療を提供するためには物理的な問題を含めて限界がある。これらの問題点をカバーするため、わかさクリニックでは、在宅医療用のポータブルなレントゲン、超音波装置、心電図、胃瘻用ポータブル内視鏡を整えて、多くの医学的管理を可能としている。