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連帯保証人は「もう、本当に勘弁して欲しいわ」
30年以上前の賃貸借契約には、連帯保証人としてお兄さんの存在がありました。滞納が始まったとき、家主が連絡をとろうと電話したけれど、すでにその番号では繋がりませんでした。月日も経っていることから、家主は連絡がとれなくても仕方がないと諦めていました。
更新ごとに契約書も書き換えていなかったので、今ある情報はもともとの契約書のみ。とりあえず住民票を請求してみました。
幸いにも山沖さんのお兄さんは最近お引っ越しをされたようで、住民票を辿って今の住所まで探し当てることができました。山沖さんの物件から、3駅ほど離れた住宅地です。いきなり手紙を送るのもどうなのかな、そう思ったので会いに行ってきました。
「できれば関わりたくないんですよね」
お兄さんは外出されていて、奥さんとお話しすることができました。
「義両親が亡くなった頃だから、もう15年くらい経つでしょうか。いろいろ相続のことで揉めたんです。だから正直関わりたくないですね。主人も同じだと思いますよ。実の兄弟ではありますが、政則さんとは性格も違いますし。うちは子どももいますが、政則さんは、一度も結婚もされずに独身でしょう? だから話も合わなくて、どんどん疎遠になって。義両親の法事も、声かけても来ませんから。今日お越しいただいたことは、主人には伝えますから」
奥さんは連帯保証人であることを、どうやったら辞めることができるのか、このまま手続きが進んだら連帯保証人はどのような負担があるのか、そこを心配されていました。
民法改正以降(2020年4月施行予定)は、賃貸借契約の連帯保証人が亡くなった場合には、連帯保証契約は引き継がれません。施行前の契約の連帯保証人は、原則旧法が適用されるので、亡くなった場合には相続人が連帯保証人となっていきます。
いま山沖さんのご主人がお亡くなりになれば、その連帯保証人たる地位は奥様とお子様が承継することになるのです。
「もう、本当に勘弁して欲しいわ」
奥さんは吐き捨てるように呟きました。義理の弟の家賃滞納。関わりたくないという気持ちになっても、当然のことでしょう。
翌日、お兄さんから直接連絡が入りました。
「弟は2年前に病気をしたんです。脳梗塞だったのですが、幸いなことに軽く済みました。ただそれ以降、どうも攻撃的になってしまったような気がします。それだけじゃないかもしれませんが……」
このままだと連帯保証人であるお兄さんも、訴訟の被告になってしまいます。ただそれだけは嫌だと言います。
「弟が退去した後、滞納分も払うし、原状回復の費用も払います。それはお約束しますから……」
自分と血の繋がった弟のことで、裁判の当事者になんてなりたくない、その思いがひしひしと伝わってきました。
一般的に日本は、アメリカのような訴訟国家ではありません。主張も控えめだったりするので、すぐに「訴訟に」とはなりません。そのため「被告」となることに、強い抵抗感を覚える方はたくさんいらっしゃいます。賃貸借契約の連帯保証人は、直接の当事者ではありません。自分が借りて住みながら滞納している訳ではないので、その思いも仕方がないことかもしれません。
家主も「お金を払って欲しい」というよりは、「スムーズに退去して欲しい」という考えだったので、転居の協力をしてもらうことをお願いして訴訟の当事者にはしないことにしました。