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約200万円の家賃滞納…日銭を稼ぐことで精一杯の老人
◆後継者がいない工場の滞納
川崎市の町工場が立ち並ぶエリアで、40年ほどネジ工場に物件を貸している家主から相談を受けました。とにかく裁判ででも追い出してくださいというリクエストでした。
工場には昔はそれなりに人もいたのでしょうが、後継者がいないのか、それとも人を雇うほどの売り上げがないのか、今は73歳になる社長の影山史郎さん一人しかいません。何度言っても家賃を振り込みにしてくれないので家主が毎月回収に行くのですが、ここ最近影山社長は体調を崩し気味なのか、工場が稼働していないときが増えました。
家主は滞納額のことももちろん気になりますが、それ以上にこの大きな機械が気になります。このまま何かあって影山社長が入院でもしたら、さぁ大変。機械は勝手に処分もできないし、仮に処分するとなっても特殊なので相当な金額が必要になるはずです。そんなことを気にしていたら、夜も寝られなくなってしまいました。
月14万円の賃料で、すでに滞納額は200万円近くになっています。影山社長も売り上げが減っているのでもっと安い物件に移りたいと思いつつ、そもそも今がとても安いので移れそうなところもないようです。
影山社長の側からすると、体もしんどい、でも生活費を稼ぐために工場は閉鎖できない、滞納分を補填するだけの売り上げもない、解決策がないまま日銭を稼ぐことで日々が精一杯。これが現実のようです。
夏の盛り、3度目の訪問でやっと家主は工場が稼働しているタイミングの影山社長に会えました。
「ずっと工場閉めていたの? もう体力的にも継続は大変なんじゃないの? そろそろ閉鎖したらどう? 今月は家賃払ってもらえるんだよね」
影山社長は、目を合わせません。
「今月も払えないの? もうこれ以上は無理だよ」
「仕事はちゃんとある。たまたま体調を崩し気味だったから払えなかったけど、もう大丈夫だと思う」
そんなことはないでしょう。かれこれ2年近く払ったり払わなかったりが続いているのです。
「今いくら滞納しているか、自分でも分かってる? 200万円近いんだよ。機械を撤去するにも莫大な費用がかかるだろうし、機械を売るなり引き取ってもらうなりして、工場閉めることを真剣に考えてよ」
それでも影山社長は、首を縦に振りません。
「じゃ、この滞納額、どうやって払っていくの? 毎月の家賃も払えないんだから、滞納額は減るどころか増える一方なんだよ。今日家賃払ってもらえなかったときのことを考えて、解約の書面持ってきたんだ。はい、これに署名押印して」
解約の書面には滞納額が196万円であること、契約を解約すること、2ヵ月後の9月末には機械を全部撤去して工場を明け渡すことが記載されていました。家賃を払っていないし、払える見込みもない以上、仕方ありません。影山社長はしぶしぶ書面に判を押しました。
「機械の引き取り先、ちゃんと探して空っぽの状態で明け渡してよ」
家主はそう言い残して、その場を去りました。
ところが9月末、工場は明け渡されませんでした。もちろんこの間も、家賃は支払われていません。そこで手続きのご依頼に至ったという訳です。