「できるだけ使わない」夫婦の方針だったが…
「老後は、できるだけお金を使わないようにしよう」
そう決めていたのは、埼玉県に住む山本さん夫妻(仮名・ともに71歳)です。
夫は会社員として定年まで働き、退職後は年金生活に入りました。現在の年金収入は夫婦で月24万円ほど。さらに、退職金や長年の貯蓄を合わせた金融資産は約3,900万円あります。
数字だけ見れば、決して不安定な家計ではありません。しかし、夫妻は老後に入ったころから、生活費をできるだけ抑える暮らしを続けていました。
「これから何十年生きるか分からないと思うと、怖かったんです」
妻はそう振り返ります。
夫婦の生活は、きわめて質素でした。
外食はほとんどせず、旅行にも行きません。友人との食事の誘いがあっても、「節約しているから」と断ることが増えていきました。
「家にいればお金はかかりませんから」
総務省『家計調査(2024年)』によると、高齢夫婦のみの無職世帯の平均消費支出は月25.6万円ですが、山本さん夫妻の生活費はそれよりもかなり少ない水準でした。
「使わなければ、その分安心できますから」
ただ、その生活を続けるうちに、変化が起きました。まず減っていったのは、人付き合いです。
「誘われても断ることが増えたんです」
最初は年に数回だった断りも、やがてほとんどの誘いを断るようになりました。友人からの連絡も、少しずつ減っていきます。
「気づいたら、ほとんど家にいる生活になっていました」
しかし、ある日の夕食の時間。食卓に並んだのは、いつものように簡単な家庭料理。テレビをつけたまま、食事をしていたとき、妻がぽつりとこう言いました。
「私たち、何のために節約しているんだろうね…」
確かにお金は減っていません。しかし、その代わりに生活から消えていたものもあったといいます。
