「昔はこんなんじゃなかったのよ」隣人女性は心配そうに呟く…。(※写真はイメージです/PIXTA)

1年ほど家賃を滞納している74歳男性。督促をしても喚き散らす始末で、家主も実兄も困り果て…。「強制執行」までの経緯を、OAG司法書士法人代表・太田垣章子氏が解説します。 ※本記事は、書籍『老後に住める家がない!』(ポプラ社)より一部を抜粋・編集したものです。

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    「もう手続きでお願いします」強制執行に踏み切るが…

    「人が変わったみたい」

     

    左隣の女性が呟きました。

     

    「これは……引っ越しを促すなんて、無理ですね。もう手続きでお願いします」

     

    お兄さんの声も、落胆のあまりか沈んでいました。

     

    山沖さんが家賃を払っていないことの明け渡しの裁判は、順調に進みました。山沖さんは訴状も受け取らず、裁判の日にも出廷せず、答弁書で主張することもなく、流れのまま明け渡しの判決が言い渡されました。

     

    その後も一度も山沖さんと連絡が取れることはなく、手続きは強制執行に進みました。

     

    執行官が気にするのは、山沖さんの年齢です。74歳で認知症もないかどうか、執行で出てもらえる状況かどうかです。

     

    荷物を完全に撤去して明け渡しをする日時を、山沖さんに告知する催告の日が来ました。お兄さんも心配なのか、電車に乗ってこられました。関係者全員が固唾を呑んで、事の成り行きを見守ります。山沖さんと会った日から、すでに2ヵ月半は経っていました。

     

    「山沖さん、山沖さぁーん、裁判所です。開けてください」

     

    執行官が呼び鈴を鳴らしながら、室内の山沖さんに声を掛けます。

     

    「山沖さん、鍵開けますよ」

     

    この前は自分からドアを開けていましたが、今回は執行官が鍵を開けます。

     

    体調が悪くて寝込んでいるのでは、皆がそう思いました。

    次ページ「このままじゃ断行厳しいかな」執行官は呟き…
    老後に住める家がない!

    老後に住める家がない!

    太田垣 章子

    ポプラ社

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