1年ほど家賃を滞納している74歳男性。督促をしても喚き散らす始末で、家主も実兄も困り果て…。「強制執行」までの経緯を、OAG司法書士法人代表・太田垣章子氏が解説します。 ※本記事は、書籍『老後に住める家がない!』(ポプラ社)より一部を抜粋・編集したものです。
「このままじゃ断行厳しいかな」執行官は呟き…
開錠されドアが開くと、山沖さんは玄関に立っていました。遠くからの様子ですが、それでも元気がないことは明確です。
「家賃払ってないからね、明け渡しの手続きになっていますよ。分かりますか?」
執行官が優しく言っても、さして反応がありません。
「来月の5日に荷物を完全に撤去するからね。それまでに引っ越し先を見つけて出てくださいね。ここに紙貼っておくから。役所に相談したらいいと思いますよ」
執行官は荷物を運び出す断行の日時が記載された公示書を、ドアの裏側に貼りました。今後の流れも説明されているのですが、山沖さんは聞いているのかいないのか、ただ公示書を眺めているだけです。前回より髪の毛も髭も伸び、同じ服なのでしょうか、さらに汚れた様相で生気がありません。ご飯をきちんと食べていないのか、かなり痩せた印象も受けました。
説明が終わり、ドアを閉めたところで執行官が呟きます。
「これ……このままじゃ断行厳しいかな。ちょっと検討してみて」
OAG司法書士法人代表 司法書士
株式会社OAGライフサポート 代表取締役
30歳で、専業主婦から乳飲み子を抱えて離婚。シングルマザーとして6年にわたる極貧生活を経て、働きながら司法書士試験に合格。
登記以外に家主側の訴訟代理人として、延べ2500件以上の家賃滞納者の明け渡し訴訟手続きを受託してきた賃貸トラブル解決のパイオニア的存在。
トラブル解決の際は、常に現場へ足を運び、訴訟と並行して賃借人に寄り添ってきた。決して力で解決しようとせず滞納者の人生の仕切り直しをサポートするなど、多くの家主の信頼を得るだけでなく滞納者からも慕われる異色の司法書士でもある。
また、12年間「全国賃貸住宅新聞」に連載を持ち、特に「司法書士太田垣章子のチンタイ事件簿」は7年以上にわたって人気のコラムとなった。現在は「健美家」で連載中。
2021年よりYahoo!ニュースのオーサーとして寄稿。さらに、年間60回以上、計700回以上にわたって、家主および不動産管理会社向けに「賃貸トラブル対策」に関する講演も行う。貧困に苦しむ人を含め弱者に対して向ける目は、限りなく優しい。著書に『2000人の大家さんを救った司法書士が教える 賃貸トラブルを防ぐ・解決する安心ガイド』(日本実業出版社)、『家賃滞納という貧困』『老後に住める家がない!』(どちらもポプラ新書)がある。
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