(※写真はイメージです/PIXTA)

本記事は、TMI総合法律事務所のウェブサイトに掲載された記事『NFTに関する法的考察~アート、ゲーム、スポーツを題材に~』(2021年5月27日)を転載したものです。※本記事は法的助言を目的とするものではなく、個別の案件については当該案件の個別の状況に応じ、日本法または現地法弁護士の適切な助言を求めて頂く必要があります。また、本稿に記載の見解は執筆担当者の個人的見解であり、TMI総合法律事務所または当事務所のクライアントの見解ではありません。

CONTENTS 03 NFTとアート

1.NFTアートマーケットの出現 

 

2021年に入り、NFTアートが急速に注目を集めています。2021年2月25日から3月11日に実施されたクリスティーズ・ニューヨークのオンラインオークションでBeeple作のNFTデジタルアート作品「Everydays: The First 5000 Days」が約75億円(6934万6250ドル)で落札され、その後も、NFTデジタルアート作品が高額で取引される例が出ています。

 

現在、Openseaなどのマーケットプレイスで多数のデジタルアート等のオークションや販売が実施されており、デジタルコンテンツの新たなビジネスチャンスの場として注目されています。特徴的なのは、NFT アートとして一度市場に出した後は、そのNFTアートが取引(売買)される都度、その取引金額の一部をNFTアートの出品者に還元させることが可能な点です。これは、NFTが用いる規格(ERC721など)に基づくスマートコントラクト(ある契約条件を満たした場合に、契約内容が自動的に実行される仕組み)により実現されています。自らの作品を世に出したい方、また、既存のコンテンツの更なる活用を模索されている方の中にも、NFTアートの活用を考えている方が増えているのではないでしょうか。

 

2.問題の所在 

 

しかしながら、前述のとおり、NFTアート取引は、①ブロックチェーン技術やNFTという新しく、まだ、一般的にはなじみの薄い仕組みを利用していること、②市場自体が非常に新しい市場であること(日本においても主に2021年に入ってから取引がされているようです)、また、③NFTアートの対象アイテムの種類が現在も拡大中であり取引慣行が固まっていないことなどから、取引の手続きや取引をめぐる権利関係について必ずしも周知されていない状況といえ、NFTアートを購入した場合どのような権利を取得していることになるのか、理解しないまま取引を行っているような事例もあるように思われます。特に、NFTアート取引におけるNFTアートの権利と作品自体の著作権との関係は分かりづらいものといえます。そこで、本章では、NFTアートと著作権の関係について整理するとともに、NFTアートを出品、購入する場合の注意点についてまとめたいと思います。

 

3.NFTと著作権 

 

まず、NFTアートには、デジタルアートとして制作された作品をNFT化したものと、既存の絵画やコンテンツ等の物理的な作品(リアルアート)をデジタルデータ化したものをNFT化したものがあります。それぞれ画像や動画、写真、音声付きのもの等様々なものが考えられます。

 

NFTアートの取引においては、「NFTの所有権を買う」といった表現が使われることがあります。これはいったいどのような意味を持っているのでしょうか。NFT自体は形のない無体物なので、法律上は、有体物を対象とする所有権の対象とはなりません。すなわち、NFTには所有権は生じません。ではいわゆる「NFTを取得する」とはいかなる内容を意味するのでしょうか。NFTを取得した状態とは、唯一無二というNFTの技術的性質を裏付けとして、特定のデジタルデータを保有していることを書き換え不能な態様でブロックチェーン上に記録している状態であると言えます。

 

一方、著作権とは、著作物の作者(著作者)に与えられる独占的な利用権です。著作権を保有している人は、著作物の複製、翻案、譲渡、放送、インターネット配信等の利用行為を独占的に行うことができます。NFTアートを保有しているということと、著作権を保有しているということは全く別のことであり、NFTアートを取得しても、その作品の著作権を取得するものではないことに注意が必要です。

 

この点、リアルアートでも所有権と著作権は別です。所有権者は唯一無二の作品現物を自分のものとして使用収益できますが、作品の複製や改変、放送や配信などの利用ができるのは著作権者と著作権者から許諾を得た者に限られます。所有権者は、著作権者からの許諾を得ることなくこれらの利用を行うことはできません。ただし、例えば著作権法45条により、美術の著作物の原作品の所有者は、その著作物を原作品によって公に展示することができるなど、所有権と著作権を調整がされています。このように所有権と著作権は別ではありますが、リアルアートの場合、所有者は、世界に一つしかない現物を独り占めにすることもできますし、一定の範囲で法律に基づき利用することも可能ですので、そこに高い価値を見出すことも十分に可能といえます。

 

NFTアートの場合も、上記の通りNFTアートの保有権と著作権は別ですので、NFTアートを取得しても、取得者は、著作権者の許諾がなければ複製や配信など何の利用もできません。著作権法45条のような作品の所有者に一定の利用を認める法律上の規定もありません。NFTアートの場合、独り占めできているのは特定のデジタルデータのみであって、作品自体を独り占めできるわけではない点に注意が必要です。その意味では、NFTアートの価値評価は、リアルアートとは異なる観点から行われるべきものと言えます。一般的には、特定のデジタルデータと、そこに表現されている対象作品の結びつきの強さ(希少性)や、購入者の権利内容によって、NFTアートの価値評価が異なるといえます。

 

4.NFTアート取引上の注意点 

 

(1)購入者の注意点

 

①NFTアート購入後の利用可能範囲を確認すること

 

上記の通り、NFTアートを購入したといっても、特定のデジタルデータの保有権を購入したにすぎません。当該デジタルデータで表現されている作品の著作権者からの許諾がない限り、その作品の複製や配信等の利用ができないことに注意が必要です。したがって、NFTアートを購入しようとする人は、購入後にどのような利用が可能とされているのかを事前に確認して取引に入るべきと言えます。少なくともNFTアートのマーケットプレイスの利用規約の内容を確認しておく必要があるでしょう。

 

例えば、マーケットプレイスの一つであるSuperRare (https://superrare.com/)の利用規約には、以下のような規定があります。

 

a.NFTアートの購入者は、作品を表すトークンを保有するだけであり、作品自体や作品の著作権を取得するものではないこと。

 

b.購入者は、購入したNFTアートを、限定された目的に限り(取得事実の公表、作品論評、NFTアート転売など)、オンライン上で展示する権利のみを取得すること。

 

c.購入者は、作品の改変、複製利用、商業目的での利用、その他不適切な利用が禁じられること。

 

d.購入者が、NFTアートを転売した場合、その者が有していた上記の利用権は消滅すること(転得者のみが利用権を有すること)。

 

NFTアートを購入する際には、どのような権利が許諾されているのかを、利用規約で確認することがトラブルを避けるために大変重要です。

 

また、特定のマーケットプレイスで購入したNFTアートは、原則として当該マーケットプレイス上での取引しか認められず、この点からも、マーケットプレイスの利用規約を確認することは大切といえます。

 

②類似NFTアート作品の存在

 

また、NFTアートの購入者が保有しているのはあくまで特定のデジタルデータのみであり、作品自体ではありません。自分が購入したのと同一の作品が複数NFTアート化されている可能性もあるでしょう。すなわち、作品の作者が同一又は類似のNFTアート作品をいくつも作る可能性もありますし、また、既存のリアル作品をデジタル化してNFTアート化した場合には、同じ作品を別の人がNFTアート化する可能性もあります。このように、NFTアート作品を購入しても、作品としては同一又は類似の作品が複数存在しうることを理解の上で、購入することが必要です。

 

この点、スポーツの分野ではありますが、NBA Top Shot(https://nbatopshot.com/)のように同一内容のデジタルコピーがいくつNFTアート化されるのかをあらかじめ定め、その数に応じて価格が設定されているマーケットプレイスもあります。また、出品時にNFTアートの対象作品の販売回数を1回のみか複数回かを選択できるマーケットプレイスもあります。同一又は類似のNFTアートが存在しないことが何らかの形で確保されているのであれば、そのNFTアートの希少性が高まり、リアルアートに近づくものといえるでしょう。

 

なお、このように同一作品の再NFT化が規約で禁止されているとしても、同一性の有無がどう判断されるのかは、必ずしも明確ではありません。人の目には全く同じ作品のように見えても、データとしては別物である作品をNFTアート化できるのか否かは、その規約の解釈によるものと考えられます。また、規約で同一作品の再NFT化が禁止されていたとしても、同作品のそれ以外の利用に制限が及ぶものではない点についても注意が必要です。作品の著作権者は、NFT化以外の商品化利用等は自由にできるものといえます。

 

③第三者による権利侵害

 

第三者が同一又は類似の作品を作成・利用(NFTアート化を含みます)したり、購入者が購入したNFTアートを第三者が不正利用しても、NFTアート購入者は、著作権を保有していないため、その第三者に対して差止請求や損害賠償請求を行うことはできません。

 

④権利侵害作品に注意

 

原作品の権利者の許諾なくNFTアート化されたり、NFTアート化された原作品自体が第三者の知的財産権を侵害する作品である場合には、当該NFTアート自体の利用ができず、無価値となる可能性があります。一般的に、NFTアートのマーケットプレイスの規約では、権利侵害品の出品は禁止されていますが、購入対象が権利侵害品か否かを確認するのは購入者自身の責任とされ、マーケットプレイス自体は免責されている例が多いものといえます。

 

また、NFTアートが、第三者コンテンツを取り込んでいる作品である場合、パロディである場合、人の肖像が表現されているものの場合は、その作品に取り込まれている作品の作者からの許諾取得を含めた確実な権利処理が必要となりますので、適切な権利処理が行われている作品である必要があります。マーケットプレイスによっては、出品作品は出品者が作成したオリジナルのものあることを要求しているところもあります。

 

⑤誤った価値評価をしないために

 

NFTアートを購入する際、その価値をどう評価するかは、購入者の主観によるところが大きいといえますが、購入後に当初想定していたのと異なる事態となることを避けるため、当該NFTアートの購入後にどの程度の利用メリットを享受できるのか、マーケットプレイスの利用規約等をあらかじめ確認し、理解した上での取引参加が重要といえます。特に、価格については、不当に吊り上げられている可能性がないか、慎重な判断が必要です。

 

(2) 出品者の注意点

 

①権利処理の必要性

 

まず、NFTアートとして出品する場合、他人の権利を侵害しないようにしなければいけません。他人の著作物を著作者に無断でNFTアート化して出品することは、著作権法上、複製権(21条)、自動公衆送信権(23条1項)、譲渡権(26条の2第1項)等の侵害となり得ます。他人の著作物に改変を加えてNFTアート化する場合は、翻案権(27条)や同一性保持権(20条1項)等の侵害にもなり得ます。権利侵害品を出品することは、通常マーケットプレイスの利用規約でも禁じられています。

 

したがって、他人の作品である場合はもちろん、作品の制作に複数人が関与している場合や当該作品が他の作品の二次的著作物であるような場合、作品をNFTアート化するにあたっては、他の権利者から、出品について事前に許諾を得る必要があります。また、許諾を得るにあたっては、NFT化された作品が、購入者によってどう利用されるかについても説明し、その許諾を得ておくことが必要といえます。

 

②購入者にどの範囲で利用させるのか

 

NFTアートの出品者は、自分に作品の著作権があれば、本来、購入者による当該NFTアートの利用可能範囲を自由に決めることができるはずです。しかしながら、NFTアートとして出品した以上、出品したマーケットプレイスの利用規約に定められた条件に拘束されることになりますし、また、出品により、当該NFTアートを購入者が一定の範囲で利用することは出品者として当然許諾しているものと推定される場合もあるでしょう。利用条件が不明確であったり、購入者が利用可能範囲を十分に理解せずに購入した場合には、利用可能範囲を巡ってその購入者との間でトラブルになる可能性があります。上記の購入者の注意点①で記載したとおり、出品者としてもマーケットプレイスの利用規約を事前に十分確認すべきです。

 

③同一・類似作品の取り扱い

 

NFTアートの価値は、同一又は類似の内容のNFTアートがいくつ存在しているのかによって、大きな影響を受けるものと考えられます。NFTアート化したからと言って、同一出品者による同一又は類似の作品の更なるNFTアート化が必ずしも制限されるものではありませんが、マーケットプレイスの利用規約によっては、この点に関する制限が規定されている場合がありますので注意が必要です。

 

④既存ビジネスへの影響

 

既存の有力コンテンツをNFTアート化してビジネスチャンスの拡大を考えている方もいると思います。既存の有力コンテンツは、NFTアートとしても売れる可能性は高いでしょう。しかしながら、コンテンツビジネス全体の計画とバランスを考えないと、コンテンツの陳腐化を引き起こす可能性も否定できません。また、前記の通り、購入者による利用可能範囲を明確にしておかないと、購入者による利用によって、出品者のビジネスに悪影響が及ぶ可能性もあります。オークションの場合には、購入者がどのような人物であるか、あらかじめ知ることができないというリスクもあります。また、既に商標登録されていたり、商品・サービスのロゴとして使用されている図柄をNFT化して販売すると、購入者の利用態様によっては出所の混同を引き起こす可能性も否定できず、注意が必要です。

 

5. 小括 

 

NFTアートを出品する場合、購入者によるコンテンツの一定の自由利用が想定されているといえるでしょう。しかしながら、その範囲が不明確なままでは、購入後トラブルになってしまいます。NFTアート取引を行う場合、NFTアート購入者がどう利用できるのかがマーケットプレイスの利用規約等で明らかとされているのかを確認しておくことが大切といえます。

 

NFTアートの保有と著作権の帰属が別である以上、NFTアート市場が今後益々活発となっていくためには、当該NFTアートの利用価値を確保するとともに、その希少性をどう実現していくかが課題のように思われます。例えば、リアル作品をNFTアート化した作品やデジタルアート作品の場合、同作品のデジタルデータが複数存在できないような状況が担保されていることがデジタルデータの希少性を高めることになるでしょう。希少性よりも、データ自体に固有の利用価値があるもの(ゲームのプレイングデータ)や、もともと同一内容のコンテンツの存在が想定されているもの(トレーディングカード的なもの)などはNFTとの親和性が高いのではないかと思えます。また、NFTアートとリアルビジネスとの連動(NFTアートの保有がリアルイベントへの参加資格となるなど)も活用の一例として考えられます。

 

NFTアートは、今まさに様々な活用が模索されている新たなメディアであり、今後の展開が注目されます。

 

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○執筆者プロフィールページ
   五十嵐 敦
   成本 治男
   金子 剛大
   長島 匡克

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