(※写真はイメージです/PIXTA)

本記事は、TMI総合法律事務所のウェブサイトに掲載された記事『医療的ケア児支援法の施行(2021年9月)』(2021年9月7日)を転載したものです。※本記事は法的助言を目的とするものではなく、個別の案件については当該案件の個別の状況に応じ、日本法または現地法弁護士の適切な助言を求めて頂く必要があります。また、本稿に記載の見解は執筆担当者の個人的見解であり、TMI総合法律事務所または当事務所のクライアントの見解ではありません。

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医療的ケア児支援法の成立・施行

2021年6月に「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」(以下「医療的ケア児支援法」)が成立し、同年9月18日に施行されます。

 

この法律により、国や地方公共団体は医療的ケア児及びその家族に対する支援に係る施策を実施する責務を負うことになります。

医療的ケア児とは

「医療的ケア児」とは、日常生活及び社会生活を営むために恒常的に医療的ケア(人工呼吸器による呼吸管理、喀痰吸引その他の医療行為)を受けることが不可欠である児童をいいます。

 

※「医療的ケア児」には、酸素吸入や数時間に1回の医療的ケアがあれば通常の生活を送ることができる児童から、自らの意思では身体を動かすことができない状態の児童まで、様々な児童が存在します。

 

医療技術の発達により、難病や障害を持つ多くの子供の命が救われている一方で、医療機関を退院したあとも、日常的に人工呼吸器を着けたり、痰の吸引が必要であったり、胃ろう等による栄養摂取が必要となることが多く、そのような医療的ケア児は増加傾向にあり、全国の医療的ケア児は約2万人(推定)とされています。

 

出典:「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」について(厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部障害福祉課 障害児・発達障害者支援室作成(2021年6月21日))https://www.mhlw.go.jp/content/12601000/000794739.pdf
出典:「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」について(厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部障害福祉課 障害児・発達障害者支援室作成(2021年6月21日))(https://www.mhlw.go.jp/content/12601000/000794739.pdf

これまでの問題点・医療的ケア児支援法の成立の経緯

医療的ケア児の在宅療養は家族の負担が重く、24時間のケアのために保護者が仕事を失う・新たな就労を断念せざるを得ない、社会との繋がりを失い孤立するなどの状況が生じていました。

 

また、医療的ケア児やその家族が保育園などの施設に通うことを希望している場合であっても、施設側が医療的ケア児を受け入れるためには、各児童に応じた医療的ケアのための人員や設備を整えるには相応の財政的負担が生じるため、受け入れに積極的な施設は多くありませんでした。仮に受け入れを行っている施設であっても、提供できる医療的ケアは一定のものに限られ、それ以外の医療的ケアを必要とする児童は施設に通うことを断念せざるを得ませんでした。

 

その結果、医療的ケア児が心身の状況等に応じた適切な支援を受けられないという問題が生じていました。

 

このような事態の改善に向けて、関係者の尽力により、2016年には、医療的ケア児への支援を各省庁及び地方自治体の努力義務とする改正障害者総合支援法が施行されましたが、今回の医療的ケア児支援法では、それをさらに進めて、医療的ケア児への支援を国や地方自治体の「責務」とした点で、画期的と言われています。

医療的ケア児支援法の内容

医療的ケア児支援法は、(i)医療的ケア児の健やかな成長を図ると共に、その家族の離職の防止を図り、(ii)安心して子どもを生み、育てることができる社会の実現に寄与することを目的として、①国、②地方公共団体、③保育所の設置者等、④学校の設置者、⑤政府の各責務等を定めています。

 

主な責務等をまとめると、以下のようになります。

 

 

 

特に、学校の設置者に対しては、明示的に「学校に在籍する医療的ケア児が『保護者の付添いがなくても』適切な医療的ケアその他の支援を受けられるようにするために、看護師等の配置その他の必要な措置を講ずるものとする」と定めており、保護者による24時間ケアを前提としない医療的ケアありの学校生活の実現を掲げています。

 

※文部科学省は、医療的ケア児支援法の成立を受けて、小学校等における医療的ケアに関する基本的な考え方を改めて整理し、「小学校等における医療的ケア実施支援資料~医療的ケア児を安心・安全に受け入れるために~(令和3年3月)」を作成しています。(https://www.mext.go.jp/content/20210701-mxt_tokubetu01-000016489_01.pdf

 

※これまでも、たとえば東京都教育委員会では独自に「都立学校における医療的ケア実施指針」を策定し、一定の場合に保護者の付添いなく医療的ケア児が登校できる取組みを行っています。(https://www.kyoiku.metro.tokyo.lg.jp/school/document/special_needs_education/files/medical_care/medical_care_01_00.pdf

 

また、各都道府県は、医療的ケア児支援法に基づき、医療的ケア児及びその家族に対して、専門的にその相談に応じたり、情報提供や助言を行うなどの支援を行う「医療的ケア児支援センター」の設置をすることができます。

 

既に医療的ケア児支援センターの設置に向けて準備を進めている都道府県もあり、同センターの運営により、一層の支援が行われることが期待されます。

最後に

医療的ケア児支援法は、国や地方自治体の責務等を定めたという点で画期的であり、本法の成立を受けて、医療的ケア児を育てる保護者、小児医療に携わる医師や病院、保育所の設置者などからは、医療的ケア児の健やかな成長、保護者の離職の防止、社会の医療的ケア児への理解の広がりを期待する声が上がっています。

 

一方で、具体的な施策の実現は、今後の国や地方自治体の動き次第となります。

 

本法の成立・施行を一つの契機に、医療的ケア児とその家族が、その医療的ケアの度合いに応じた適切なサポートを受けながら、充実した生活を送ることができる社会の実現に向けた動きが加速することが期待されます。

 

 

TMI総合法律事務所
弁護士 水田 進

 

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       水田 進

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