(※写真はイメージです/PIXTA)

本記事は、TMI総合法律事務所のウェブサイトに掲載された記事『NFTに関する法的考察~アート、ゲーム、スポーツを題材に~』(2021年5月27日)を転載したものです。※本記事は法的助言を目的とするものではなく、個別の案件については当該案件の個別の状況に応じ、日本法または現地法弁護士の適切な助言を求めて頂く必要があります。また、本稿に記載の見解は執筆担当者の個人的見解であり、TMI総合法律事務所または当事務所のクライアントの見解ではありません。

CONTENTS 04 NFTとゲーム

1.ゲームとNFT 

 

ブロックチェーンゲームとは、ブロックチェーン技術を活用したゲームであり、ゲーム内で利用可能なアイテム等のコンテンツがブロックチェーン上のNFTとして発行され(以下、当該NFT化されたゲームアイテムを「NFTゲームアイテム等」といいます)、個々のサービスの枠組みを超えて、ブロックチェーン上で取引できるようなゲームをいいます(注1)。ブロックチェーンゲームに登場したのは、2017年冬にリリースされたCrypto Kittiesで、バーチャルなネコを購入して交配させ、独自のネコを育てて、唯一無二のネコをつくり出し、NFTを用いて市場で売買できるというものでした。現在は、日本では、Crypto SpellsやMy Crypto Heroesなどがよくプレイされています。

 

(注1)一般社団法人日本暗号資産ビジネス協会「NFTビジネスに関するガイドライン 第1版 令和3年4月26日策定」(https://cryptocurrency-association.org/dl/nft_guideline202104.pdf)参照

 

従前のオンラインゲームはゲーム会社が発行するアイテム等を当該ゲーム会社が中央集権的に管理し、当該ゲームというプラットフォーム内でのみ取引がなされるものでしたが、ブロックチェーン技術により当該ゲームというプラットフォームを離れて取引が可能とされる点がブロックチェーンゲームの特徴であり、以下のような比較がなされています(注2)

 

(注2)一般社団法人日本暗号資産ビジネス協会「NFTビジネスに関するガイドライン 第1版 令和3年4月26日策定」(https://cryptocurrency-association.org/dl/nft_guideline202104.pdf)参照

 

 

たとえば、ブロックチェーンゲームの①の特徴について、My Crypto Heroesの利用規約(https://www.mycryptoheroes.net/ja/terms)には、「アセット」という項目があり、「アセット」は「ユーザーが本サービス上で保有可能な情報であって、本サービス上で定義されるもの」と定義され、「ユーザーはアセットを他のユーザーに対し、当社所定の方法により譲渡することができます。本条項でアセットを譲渡されたほかのユーザーは本サービス上でアセットを利用することができます。」と示されています。ここから、ユーザーが「アセット」を本サービス上で「保有」し、さらに他のユーザーに対して譲渡できることが明らかにされています。

 

そして、OpenSea等のマーケットプレイスに足を運ぶと、これらのNFTゲームアイテム等が多数取引されています。

 

2.法的問題 

 

(1) NFTゲームアイテム等の暗号資産性

 

NFTゲームアイテム等の「暗号資産」該当性については、上述のとおり、「ブロックチェーンに記録されたトレーディングカードやゲーム内アイテム等は、基本的には決済手段等の経済的機能を有していないと考えられることから、暗号資産には該当しないと考えられる」旨の見解が示されております(金融庁2019年9月3日付「「事務ガイドライン(第三分冊:⾦融会社関係)」の⼀部改正(案)に対するパブリックコメントの結果について」の別紙1「コメントの概要及びコメントに対する⾦融庁の考え⽅」No.4)。ブロックチェーンゲームにおけるNFTゲームアイテム等は、サービスを超えての取引が考えられるとはいえ、現状では通常ゲーム内で使用されるアイテムであり、決済手段というよりは最終消費財という性質が強いように思われます。そうだとすると、NFTゲームアイテム等が決済手段等の経済的機能を果たしておらず、また、暗号資産と同等の経済的機能を有していないとすると、もちろん個別具体的な判断を必要としますが、暗号資産に分類されるNFTゲームアイテム等は限定的ではないかと考えられます。

 

(2)NFTゲームアイテム等の取引で手にする権利

 

NFTゲームアイテム等の取引も、NFTアートについて上述したのと同様に、NFTゲームアイテム等の取引の購入者は何を購入したのか、という点が問題になります。日本の法律上、所有権は有体物にのみ生じ得るものであるため、これらのNFTゲームアイテム等は、法律上の所有権の対象ではありません。また、無体物に関する独占権を定めている知的財産権法の枠組みにおいても、「デジタル所有権」たる権利は観念できません。著作権の譲渡がなされたか否かは、NFTゲームアイテム等を発行するプラットフォームの規約にもよりますが、例えば、上述したMy Crypto Heroesの利用規約においては、アセットは、「ユーザーがサービス上で保有可能な情報」ではあるものの、アセットの譲渡によっても「他のユーザーに著作権その他の知的財産権が譲渡されるものではない」と規定されているように、著作権の譲渡まで定めていない場合が多いものと思われます。

 

したがって、NFTゲームアイテム等の取引を法律的に整理すると、所有権や著作権等の実体法上の権利まで取得したとは考えられず、個別具体的なゲームにおいて利用できるアイテムやカード、ゲーム上に存在する仮想空間内の土地などを独占的に利用することができる債権的な権利と考えられます。

 

(3)リアルマネートレードとの関係

 

リアルマネートレードとは、ゲームアイテム等を現実世界の通貨に交換することであり、これを認めるとゲーム会社への新規アイテム発行に対する課金額が減少すること、不正対応コストが増加すること、さらには有償ガチャによるゲームアイテム等の提供が賭博に該当しうる等の理由から、従前オンラインゲームでは、業界的にリアルマネートレードが禁止されてきました(注3)。そのため、レアなアイテムを手に入れるためには、有償ガチャ等を繰り返すなど、一定の時間をかける必要がありました。

 

(注3)一般社団法人コンピューターエンターテインメント協会(CESA)の「リアルマネートレード対策ガイドライン」(https://www.cesa.or.jp/uploads/guideline/guideline20170511.pdf)や、一般社団法人日本オンラインゲーム協会(JOGA)の「オンラインゲーム安心安全宣言」(https://japanonlinegame.org/wp-content/uploads/2019/06/JOGA_declaration_2019.pdf)においてリアルマネートレードが明確に禁止されています。

 

一方、ブロックチェーンゲームにおいては、NFTを用いることにより、NFTゲームアイテム等を取引することが可能になります。そのため一定の経済力があれば、時間をかけずとも、レアなNFTゲームアイテム等を手に入れることが可能になります。もっとも、NFTゲームアイテム等の販売とリアルマネートレードの実体は近しい点があるため、リアルマネートレードが禁止されている趣旨との関係(特に賭博との関係)については留意が必要だと思われます。

 

(4)NFTゲームアイテム等の資産化

 

NFTを利用する利点として、上記のブロックチェーンゲームの特徴③のように、NFTゲームアイテム等を永続的に利用できること、すなわちNFTゲームアイテム等の資産化が挙げられます。たしかに「デジタル所有権」を保有するということの理論的な帰結はそのとおりですが、現状をみるとこの点を過度に強調することは適切ではないように思われます。上記のとおり、取引の対象は、「個別具体的なゲーム上における」NFTゲームアイテム等の利用権であり、当該NFTゲームアイテム等が利用可能なゲームの存在がその価値の前提になります。したがって、当該ゲームが何らかの理由でサービスを停止した場合、当該NFTゲームアイテム等を利用できる場所がなくなるため、ブロックチェーン上では存在し続けるものの、当該NFTゲームアイテム等の価値は実質的に失われることになりかねません。例えばあるゲームAにおいて購入したNFTゲームアイテム等が、別のゲームBにおいて一定の価値を持つNFTゲームアイテム等として利用できる場合には、ゲームAのサービス終了後でも実質的な価値は失われることにはなりませんが、このようなゲームを跨ぐ利用はまだ一般的ではありません。そうだとすると、NFTゲームアイテム等の資産化は、現状は理論上のものに留まっているように思われます。

 

(5)NFTゲームアイテム等の発行体であるブロックチェーンゲームのサービスの停止

 

現状、多くのNFTゲームアイテム等がマーケットプレイスにおいて取引されており、高額のNFTゲームアイテム等も存在します。一方で、上述のとおり、NFTゲームアイテム等が利用できるブロックチェーンゲームのサービスが停止されると、高額で取引されているNFTゲームアイテム等が実質的に無価値化することになります。NFTゲームアイテム等を発行するブロックチェーンゲームのサービスを停止する場合には、ユーザーの不利益の程度が通常のオンラインゲームよりも大きいため、より慎重な検討・手続きが必要になるものと思われます。

 

(6)賭博、景表法の問題

 

NFTゲームに関する法的規制として、賭博と景表法の問題が挙げられます。

 

賭博に関しては、上述リアルマネートレードとの関係でも軽く触れましたが、(NFTが資産性を有するデータになるため、)NFT 等その他換金性を有するゲーム内アイテムを排出する有償ガチャを行うこと、イベント参加者から有償で参加費を徴収しイベント参加者への報酬を当該参加費から分配する形でゲーム内イベントを実施すること等については、賭博に該当する可能性があります。

 

また、景表法に関しては、NFTゲームアイテム等は「経済上の利益」といえますので、NFTゲームアイテム等の提供が、場合に応じて、景品規制に抵触する可能性もあります。これらの点については、一般社団法人日本暗号資産ビジネス協会(https://cryptocurrency-association.org/news/breakout/20210426-001/)や​​一般社団法人ブロックチェーンコンテンツ協会(https://eb3d626b-4b51-42f2-b2d4-0f682cc5645e.filesusr.com/ugd/e9a87a_2028e5c7115d4fcd933e9f55e6262762.pdf)によるガイドラインも出されています。

 

3.小括 

 

ブロックチェーン技術は、ゲームにおいて親和的であるとされ、実際に多くのゲームがローンチされています。また、例えば、株式会社スクウェア・エニックスが、My Crypto Heroesを制作するdouble jump.tokyo株式会社と、「ミリオンアーサー」IPを活用したNFTデジタルシールの販売・システム開発を内容とする協業を行うなど、従来のゲーム会社もブロックチェーンゲームやNFTに多くの関心を寄せています。ゲームはデジタルコンテンツに親和的なエンタテインメントの一つであり、今後の更なるNFTの利活用が期待されますが、法的な分析については慎重に検討することが肝要です。

 

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○執筆者プロフィールページ
   五十嵐 敦
   成本 治男
   金子 剛大
   長島 匡克

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