(※写真はイメージです/PIXTA)

本記事は、TMI総合法律事務所のウェブサイトに掲載された記事『ファントークンの利活用とその法的留意点』(2021年8月4日)を転載したものです。※本記事は法的助言を目的とするものではなく、個別の案件については当該案件の個別の状況に応じ、日本法または現地法弁護士の適切な助言を求めて頂く必要があります。また、本稿に記載の見解は執筆担当者の個人的見解であり、TMI総合法律事務所または当事務所のクライアントの見解ではありません。

ファントークンとは

スポーツ・エンタテインメントの領域において、NFT(Non Fungible Token)が注目を集めていることについては前回のブログ記事「NFTに関する法的考察~アート、ゲーム、スポーツを題材に~」(以下「NFTに関するブログ記事」といいます)で解説しましたが(注1)、同様にファントークンというブロックチェーン技術を使った資金調達方法が、主にスポーツクラブ・団体(以下「クラブ等」といいます)において、注目されています。

 

(注1)五十嵐敦、成本治男、金子剛大、長島匡克「NFTに関する法的考察~アート、ゲーム、スポーツを題材に~」2021年5月27日(https://www.tmi.gr.jp/eyes/blog/2021/12565.html

 

ファントークンとは、クラブ等が発行するブロックチェーン技術を用いたトークンで、その保有者はクラブ等が設定する特別な特典(典型的にはクラブ等が設定する項目に対する投票権、トークン保有者に限定して与えられるノベルティグッズやマーチャンダイズの獲得権、VIPシートの利用等のリアルな体験ができる権利等が考えられます。以下「保有メリット」といいます)を手にすることができます。ファントークンは、ファンが保有する資格という意味においては、従前のファンクラブに近い性質を有するものの、①一般的にはファンクラブは年会費を支払う必要があるのに対し、ファントークンは一度発行されると、特に期限の定めなく保有することができる点、②ファントークンそれ自体が転売も可能であり、その転売市場に置いて金額が変動する点、③当該転売の際に転売価格の一定の割合が発行者であるクラブ等に還元される仕組みが用意されている点で異なります(もっとも、プラットフォーム毎にその詳細は異なる可能性があります)。

 

クラブ等としては、ファントークンが新たな収益源としての魅力のみならず、投票企画等を通じた新しいファンエンゲージメントの手段としての意味も有していることから、注目を集めています。

ファントークンに係る取引の実情

ファントークンに係る取引の実情を見てみると、世界では、Socios.comというプラットフォームを通じて、ユベントスやパリサンジェルマンがファントークンを先んじて発行しました。2020年にはバルセロナが発行したファントークン($BAR)が、わずか2時間で130万ドル(約1.4億円)の売上をあげたことで、日本でも特に話題になりました(注2)。世界では、いまや多くのサッカークラブのみならず、eスポーツクラブや、UFC等の他のスポーツクラブ・団体も発行しています(注3)。また一部のファントークンは、Socios.comのプラットフォームのみならず、Binanceなどの外部の暗号資産取引所においても取引可能とされています。

 

(注2)https://www.coindeskjapan.com/67828/

(注3)https://www.socios.com/socios-partners/

 

一方、日本では、2021年にFiNANCiEというプラットフォームを通じて、J1の湘南ベルマーレがファントークンを発行しました。これを発端に、SHIBUYA CITY FC、Y.S.C.C、さらにはキャプテン翼の著者である高橋陽一氏が代表を務める南葛SC等が発行しており、これらのクラブは想定を超える収益を得ていると報道されています。直近ではアビスパ福岡も発行を開始すると発表する等、その利活用は広まっています。

ファントークンの法的留意点

このようなファントークンの法的留意点はどのようなものでしょうか。ファントークンが新しい分野のため今後より精緻に分析されるものと考えられますが、現時点では以下のとおり指摘できるように思います。

 

(1)ファントークンが金融規制の対象となるか

 

保有メリットがクラブの運営に一部関与できる投票権であることや、ファントークンが売買される市場が存在する点等をとらえて株式に近いと評価されている側面があるように、やはりファントークンが金融規制(注4)の対象となるかについては、気になるところです。

 

(注4)金融規制とは、「金融システムの安定」「利用者の保護」「公正・透明な市場の確立と維持」を目的として金融取引に一定の制限をかけることを意味し、金融商品取引法、資金決済法等の規制の他、犯罪による収益の移転防止に関する法律等のマネーロンダリングに対する規制も含まれます。

 

この点、NFTに関するブログ記事でも言及されておりますが、ファントークンの保有のメリットである対価ともいうべき保有メリットが、「利益の分配」と評価される金銭等の交付であると評価される場合には、当該ファントークンが金融商品取引法の規制対象となる「有価証券」に該当する可能性があります。また、ファントークンが決済手段等の経済的機能を有している場合には、資金決済法上の「暗号資産」や「前払式支払手段」に該当する可能性がありますし、さらに、為替取引に該当する場合には銀行法上の「銀行業」や資金決済法上の「資金移動業」に該当する可能性もあります。

 

したがって、金融規制の適用がないと整理するためには、ファントークンの保有メリットの設計を、「利益の分配」と評価される金銭等の交付であると評価されないようにすること、決済手段等の経済的機能を有さないようにすることなどに留意する必要があります。(当然ながら個別具体的な事実関係に応じて判断されますが、)現状の保有メリットの多くは、発行体であるクラブ等の企画に対する「投票権」や、一部のマーチャンダイジングやファンイベントへの参加権といったものであり、当該保有メリットが利益の分配と評価される金銭等の利益の交付や、決済手段等の経済的機能を有しているものであると考えられる可能性は低いように思われます。この点、Soicios.comやFiNANCiEの利用規約においても、上記のような整理を前提とされています。

 

もっとも、将来的に金融規制の対象となる可能性は否定できないことについては、留意が必要です。金融庁が、ブロックチェーン技術等を用いた金融のデジタル化に関して、2021年7月19日に「デジタル・分散型金融への対応のあり方等に関する研究会」の設置を公開しましたが(注5)、その別紙1に従前の規制対象ではない「コンテンツ・著作物」が含められています。このことは、金融庁が、今後NFTなど金融規制の対象外との整理で行っているビジネスについても規制対象とする可能性を示していると考えられます。ファントークンの発行や取引が金融規制の対象となる場合には、ファントークンに係る実務への影響は大きくなるものと予想されますので、今後の動向には注視する必要があります。

 

(注5)https://www.fsa.go.jp/news/r3/singi/20210719/20210719.html

 

(2)その他一般に考えられる留意すべき法的な問題点

 

(i)インサイダー取引等のリスクがあること

 

ファントークンが市場に置かれ、その価値が変動する以上、ファントークンの価値に影響を及ぼす未公表の重要事実に関する情報(例えばファン投票の対象とされる内容や、トークン保有者限定商品の内容等が考えられます)を有する者(以下「インサイダー」といいます)が取引に入ると、ファントークンの市場の健全性を毀損し、その者に不当な利益をもたらすこととなります。

 

このようなインサイダー取引は、ファントークンに金融商品取引法の規制が及ばないために、法的に禁じられているものではありませんが、健全な運営のためには、インサイダーによる取引を禁ずる必要があります。この点、Socios.comにおいては、インサイダー取引を禁ずる旨の独立した利用規約が公開されていますし、FiNANCiEにおいてもそれを禁止する条項は存在するため、プラットフォーマーとしてもインサイダー取引に係る問題意識を有しているものと思われます。

 

しかしながら、刑事罰も規定されている金融商品取引法上のインサイダー取引規制とは異なり、あくまでも民事上の任意の規制に留まるため、実際にインサイダー取引が行われたかことを覚知し、これに対処する実務上のハードルは高いように思います。

 

このようなインサイダー取引の他にも、相場操縦など、金融商品取引法上禁止されている不公正取引行為が生ずる可能性もあります。そのため、不公正取引行為が生じないように、取引者の本人確認をはじめとした適切な対策を行う必要があるように思われます。

 

(ii)ファントークンの価値の変動リスクあること

 

当然ながら、ファントークンの価値が変動することは考慮すべき重要なリスクです。ファントークンは、クラブ等が準備する投票イベントへの投票権等の保有メリットを享受できる権利を表象していると考えられますので、各ファントークンの発行体であるクラブそのものの価値や、保有メリットの価値が低下すると、ファントークンの価値も低下することになります(この点において、発行するクラブ等としても、保有メリットの価値の維持が事実上求められる可能性があるように思われます)。

 

この点に加えて、上記インサイダー取引等の不公正な取引が行われるリスク、発行体であるクラブがファントークンを発行したプラットフォームとの関係を終了することなどによりファントークンの保有メリットを転売する市場が突如としてなくなるリスク、(ファントークンに発行の上限額が定まっていない場合には)追加的なファントークンの発行により従前のファントークンの価値が一方的に希釈化されるリスクなど、一定の場合に、ファントークンの価値が、無価値になる又は著しく低下するリスクが(少なくとも理論上)ある点も留意が必要に思われます。

最後に

ファントークンはブロックチェーン技術を用いた新たな資金調達の手段であり、ファンエンゲージメントの手段でもある非常に魅力的なものであることは間違いありません。もっとも、ファントークンには上記で触れた点をはじめとする法的留意点を含めて、様々な留意点があることは否定できません。そのためファントークンの購入者としては、価値変動リスクについては特にしっかりと理解して取引に入ることが必要になりますし、そのリスクが適切に予防(少なくとも購入者に告知)されることは健全な市場の発展には重要ではないかと考えます。

 

一方で、クラブ等としても、ファントークンがファンに対して発行されることや、ブロックチェーンを用いて発行されることから、長期的な目線での利活用が求められます。そのため、ファントークンの発行により達成したい長期的な目的を明確に設定し、正確な法的分析を踏まえてメリット・デメリットを検討のうえ、ファントークンの利活用を進めていくことが望ましいと思われます。

 

ファントークンは利活用が始まってまだ間もないこともあり、法的な分析も含めてまだ発展途上の分野です。ファントークンの健全な拡大のためには、法的なリスクをはじめとした利用者による正確な理解が必要です。本ブログ記事で指摘する事項は一部ではありますが、その一助になれば幸いです。

 

TMI総合法律事務所

弁護士 長島 匡克

 

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       長島 匡克

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