(※写真はイメージです/PIXTA)

本記事は、TMI総合法律事務所のウェブサイトに掲載された記事『NFTに関する法的考察~アート、ゲーム、スポーツを題材に~』(2021年5月27日)を転載したものです。※本記事は法的助言を目的とするものではなく、個別の案件については当該案件の個別の状況に応じ、日本法または現地法弁護士の適切な助言を求めて頂く必要があります。また、本稿に記載の見解は執筆担当者の個人的見解であり、TMI総合法律事務所または当事務所のクライアントの見解ではありません。

CONTENTS 05 NFTとスポーツ

1.スポーツ分野でのNFTの盛り上がり 

 

NFT市場の盛り上がりにはスポーツマーケットも大きな関心を示しています。スポーツマーケットにおけるNFTの盛り上がりがNFTの盛り上げの一助を担っているといった方が正確かもしれません。いずれにしろスポーツ分野においてもNFTは大きな盛り上がりを見せています。コロナ禍で試合や大会が中止されたり、無観客での開催が余儀なくされており、スポーツ界へのビジネス上の打撃は甚大なものとなっていますが、これを救う存在としてもNFTが注目を浴びています。

 

2020年10月にサービスが一般公開されたNBA Top Shotは、2021年4月末までの間に、β版にも関わらず既に取引総額が約6億ドル(約650億円)を超えたとされており、そのうち90%以上が再販によるものとされています。NBA Top Shotのサービス概要は後述しますが、今年2月には、リーグを代表するレブロン・ジェームズのハイライト動画が20万8000ドル(約2275万円)という高額で取引されたことが大きな注目を集めました。

 

NBA Top Shotの爆発的な人気もあり、スポーツ界ではにわかにNFTが盛り上がっています。アメリカ四大スポーツでいえば、MLB(メジャーリーグ・ベースボール)が4月20日にNFT野球カードの販売を開始したほか、NFL(ナショナル・フットボールリーグ)もNFT市場への参入がうわさされています。興味深いのは、NFLにしろNHL(ナショナル・ホッケーリーグ)にしろ、リーグによる組織的なNFTへの参入とは別に、チームやスター選手が独自にNFT市場に打って出るケースが登場している点です。取引額が高額となるケースもあり、大きなトレンドとなっています。サッカー界でも、ブロックチェーンサッカーゲーム「Sorare」内で使用できるNFTカードが人気を博しており、今年3月にはユベントスに所属するクリスチアーノ・ロナウド選手のNFTカードが28万9920ドル(約3200万円)の値がつくなど話題を呼んでいます。JリーグもSorareとパートナーシップ契約を締結しており、今年4月からJリーグの選手のNFTカードも販売が開始されています。その他、モータースポーツ、格闘技、テニスなど、様々なスポーツで、NFTを使ったビジネスが展開されています

 

2.何がNFTとして取引されているのか 

 

スポーツ分野におけるNFTといっても、その中身は様々です。なぜこれほど高額で取引がされているのかを理解するためにも、具体的にどのようなNFTがどのような態様で取引されているのか見ていきたいと思います。

 

前述のNBA Top Shotでは、「Moment」と呼ばれる実際の試合のハイライトシーンがNFTとして取引されています。Momentの内容はダンクシーンや試合を決定づけるシュートシーンなど多岐に亘ります。Momentは、①1万以上のデジタルコピーが存在する「Common Tier」、②500~4999のデジタルコピーが存在する「Rare Tier」、③50~499のデジタルコピーが存在する「Legendary Tier」、④3つしかデジタルコピーが存在しない「Ultimate Tier」、⑤世界に1つしか存在しない「Genesis Tier」の5つのランクに分類されており、①~③はNBA Top Shotのサイト上で購入できますが、④と⑤はオークションでのみ購入(落札)できます。購入したNFTはコレクションとして楽しめるほか、NBA Top Shotが提供するShowcaseというページ上で公開することができます。また購入したマーケットプレイスに出品して再販したり、第三者にプレゼントしたりすることが可能です。なお、取引(二次売買、三次売買等)のたびに一定の手数料が販売元に支払われ、そこで徴収された手数料の一部がライセンサーであるNBAに支払われる仕組みになっています。

 

チームが販売するNFTにはどのようなものがあるのでしょうか。NBAの人気チーム、ゴールデンステイト・ウォリアーズは、『Golden State Warriors Legacy NFT』と題したNFTをオークション形式で販売しました。発行されたNFTは、過去6回のチームの優勝を記念したデジタルの優勝リング(1975年以前の3回の優勝リングについては25点ずつ、2015年以降の3回の優勝リングは50点ずつ)、全6回の優勝が全て刻印されたデジタルリング(1点のみ)、チームの歴史的試合をデジタルチケットにしたもの(試合日、対戦相手、得点等が記載されたもの。10点ずつ)、また1日だけチームの選手になれる選手契約やコートサイドでの観戦チケット2枚、練習施設の見学、チームユニフォーム等がもらえる権利が化体された1点もののNFT「Golden Ticket」など、ファンにとってはたまらないNFTも公表されました。なお、デジタルリングの当初購入者(落札者)には、デジタルリングと同じデザインのフィジカルリングも送られることになっています。5月頭に行われたオークションでは、過去6回のチームの優勝を記念したデジタルの優勝リングに871,581ドル(約9500万円)、Golden Ticketにも85,875ドル(約940万円)の値が付くなど、大きな反響を呼びました。

 

スター選手がNFTを発行するケースも少なくありません。共にNFLのスター選手だったEli ManningとPeyton Manningの兄弟は、それぞれの歴史的な瞬間を描いたデジタルアート作品をNFTとして販売すると発表しています。一部のNFTの購入者には、実物のアート作品が届けられるほか、Manning兄弟と交流する機会等も付与されると公表されています。このように、チームや選手がNFTを販売する場合には、NFTとともに、フィジカルな商品(記念品等)を受け取ったり、チームや選手との特別な体験ができる権利が付与されたりするケースが少なくないようです。

 

3.法的観点から見たスポーツNFT 

 

短期間で巨大なマーケットとなりつつあるスポーツNFTですが、法的観点から検討しておくべき点は少なくありません。

 

スポーツNFTの価値を高めるためには、購入者の購買意欲(あるいはコレクターのコレクター魂)に訴えかけられるような希少性等が必要になりますが、NFTとしてどのようなデジタル商品を販売するか、換言すれば、どのような権利を購入者に付与することになるかが、一つ目の大きなポイントです。

 

また、その裏返しになりますが、NFTの発行主体が、NFTに化体された権利やNFTとともに販売・提供される権利を付与し得る正当な権限を有しているかどうかが、二つ目の大きなポイントです。

 

①スポーツに関するNFTの場合も、NFTアートと同様にNFTデータの著作権を取得するわけではありません。スポーツNFTを取得することによってどのような権利内容を取得することになるかは、それぞれのスポーツNFTによって異なります。NFT取得者がどのような権利を取得するかについては、マーケットプレイスの規約等をもとに慎重に確認することが求められます。

 

たとえば、NBA Top Shotでは、利用規約においてMomentに含まれる写真や映像の著作権は購入者に譲渡されないことが明記されており、非商業的な私的使用の目的あるいは適法な転売目的でのみ使用する非独占的なライセンスが付与されると記載されています。Moment内の写真や映像を加工したり、第三者の商品やサービスを宣伝する目的でこれらを使用することは禁止されています。

 

このようにNFTを購入したからといって、写真や映像を自由に処分できるわけではなく、一定の制約が課されるのが一般的ですので、購入者はNFTを購入することで具体的にどのような権利を取得することになるかを事前に確認することが重要ですし、販売者(発行者)もNFTとしてどんな権利を付与するのが妥当かを慎重に検討することが重要といえます(権利を与えすぎればその後の自身の権利行使を制約することになりかねませんが、不十分な権利しか付与しないのであればそもそもNFTとしての価値は高まらないおそれがあります)。

 

②このように一定の権利をNFTに化体させて、あるいはNFTとともに付与するとして、非常に重要になってくるのが、そもそもそのような権利を付与し得る権限を販売者(発行者)が有しているかという点です。

 

スポーツ分野で発行されているNFTには上で挙げたもの以外にも多種多様なものがあります。そこでNFTに化体されている(あるいは付加されている)権利も様々ですが、典型的に問題になるのは、「著作権」と「肖像権(パブリシティ権)」です。NBA Top Shotでいえば、Momentのサムネイル画面で使用されている写真やMoment内で閲覧できる映像はそれぞれ著作物として保護されています。したがって、それらの著作物に係る著作権が適切に処理されているかが問題になります。また、各Momentはそれぞれ1名の選手にフォーカスしたものになっていますが、Moment内で選手の氏名や肖像を使用することについては、選手の肖像権(パブリシティ権)が及ぶことになりますので、かかる肖像権が適切に処理されているかどうか、という点も重要になります。

 

この点、まず著作権についていえば、NFTで使用を予定している写真や映像の権利の帰属を確認する必要があります。プロスポーツにおいては、公式戦の映像に係る権利はリーグに帰属する場合、チームに帰属する場合、映像制作者に帰属する場合、複数の者で共有する場合等、さまざまなバリエーションがあり得ます。そのため、例えばリーグが公式映像に関する著作権を保有している場合に、チームが勝手に公式映像を使用したNFTを発行することはできません。チームがリーグから映像の使用許諾を得るか、リーグと一緒になってNFTを発行するか、いずれにしても映像の著作権を有するリーグとの間で合意を得た上で進めることが肝要です。また、若干細かな論点になりますが、著作権者とは別に著作者が存在する場合、当該著作者から著作者人格権を行使されてしまうリスクがないかという点も確認しておくべきでしょう(著作者との間の契約で著作権の不行使が約束されているか等)。

 

次に肖像権です。肖像権の使用許諾(ライセンス)をする権限が誰に帰属するかは、スポーツの分野において非常にセンシティブな問題といえます。肖像権について判例は、「人の氏名,肖像等(以下,併せて「肖像等」という)は,個人の人格の象徴であるから,当該個人は,人格権に由来するものとして,これをみだりに利用されない権利を有する」としたうえで、そのような肖像等の一態様として顧客吸引力を排他的に利用する権利である「パブリシティ権」を正面から認めています。

 

パブリシティ権は元来選手個人に帰属するものですが、特にプロスポーツ選手の場合は権利関係が複雑になるケースが少なくありません。所属チームとの契約において、肖像使用に関する権利の全部又は一部(プロスポーツ選手としての活動に関連する肖像使用のみ等)をチームに委任されているケース、チームの所属するリーグの規約において一定の場合においてはリーグが選手の肖像使用をリーグ自ら又は第三者を通じて行うことができるとされているケース等、競技によっても状況が異なります。日本においてもっともオーソドックスなケースでいえば、選手としての活動に関連する肖像(試合中や練習中の肖像、ユニフォームを着用した肖像等)についてはチームやリーグが管理し、その他の肖像については選手個人が管理している形かと思います。海外(特にアメリカ)では、選手が選手としての活動に関連する肖像の管理を選手会に委託し、委託を受けた選手会がリーグやチームその他の第三者に選手の肖像使用を許諾するケースが多いかもしれません。いずれにせよ、選手としての活動に関連する肖像を使用する権限はリーグやチームに帰属しているケースが多く、だからこそこれらの肖像を使用したNFTの発行者はリーグやチーム、あるいはこれらの者からライセンスを受けた第三者であるケースが一般的です。逆に言えば、選手個人がNFTの発行を思い立ったとしても、選手としての活動に関連する肖像は使用できないケースが少なくありません。

 

さらに、大学スポーツを含むアマチュアスポーツにおいては、肖像権(パブリシティ権)の使用権が誰に帰属しているのかが曖昧なケースも少なくありません。また、JOC(日本オリンピック委員会)の「シンボルアスリート」等に選ばれた場合、肖像権(パブリシティ権)についてはJOCが管理することになるなど特別ルールが適用されることになります。

 

以上のとおり、選手肖像の使用権原が誰にあるかは簡単な問題ではありません。NFTの販売(発行)に際して選手の肖像を使用する場合には、この点について詳細に検討したうえで、これを使用する権限がない場合には選手個人その他の選手の肖像権(パブリシティ権)を管理する者から適切な使用許諾(ライセンス)を受けることが必要になります。

 

上記2の通り、アメリカではチームや選手個人がNFTを発行するケースも増えておりますが、以上で述べた通り、チームや選手は選手の選手としての活動に関する肖像の使用権原を有さない(あるいは契約上認められない)ケースが多いからか、選手肖像や公式映像等を使用することなく、各自が自由に処分できる権限をうまく組み合わせながら希少価値の高いNFTを生み出していることが見て取れます。

 

4.小括 

 

スポーツの分野においてはNFTが登場する以前から、特に海外においては記念品や公式トレーディングカードが高額で取引されており、NFTを利用したビジネス展開が浸透しやすいバックグラウンドが存在していたといえます。

 

今年の年明けから2月末にかけてのNBA Top Shotでの「超」高額取引はさすがにブームの要素が大きいと言えますが(現にその後のNBA Top Shotの取引額は減少傾向にあります)、依然としてスポーツ分野でのNFTの広がりはとどまるところを知りません。前述した通り、コロナ禍でスポーツ界も大きな打撃を受ける中、NFTが一筋の光明となる可能性は小さくありません。

 

日本でもJリーグがいち早くNFT市場に打って出ましたが、今後日本の他のスポーツでも同様の動きが出てくる可能性はあるでしょう。ただし、NFTの発行に際しては、上述の通り、自らが使用権原を有する権利の範囲内でうまくNFTを組成することが求められます。選手が所属するチームやリーグ、協会の規約や規程を十分に精査し、権利関係がどうなっているかを慎重に検討することが肝要です。自らが権限を持つ権利をうまく組み合わせて希少価値が高くファン心理やコレクター魂に訴えかけるようなNFTの登場に期待したいところです。

CONTENTS 06 まとめ

以上、近時急速に関心が高まっているNFTに関し、その仕組みと共に、特に現状多くの取引が行われているアート、ゲーム、スポーツの分野について、法律上の問題点や、取引上の注意点についてまとめました。NFTは、コンテンツ流通の新たなプラットフォームとして、大きな可能性を秘めています。一方で、NFTの仕組みや法的な位置づけは必ずしも周知されているとはいえない状態です。本ブログで触れたNFTに関する法的論点は、ごく一部に過ぎません。今後も新しい論点が議論されていくことでしょう。本ブログでも、追って様々な角度からNFTについてご紹介していきたいと思います。NFT市場の健全な拡大をはかるためにも、明確なルールと提供者・利用者による正確な理解が必要です。本ブログがその一助になれば幸いです。

 

TMI総合法律事務所

弁護士 五十嵐 敦
弁護士 成本 治男
弁護士 金子 剛大
弁護士 長島 匡克

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