(※写真はイメージです/PIXTA)

本記事は、TMI総合法律事務所のウェブサイトに掲載された記事『【宇宙ブログ】スペースデブリと法規制』(2021年5月12日)を転載したものです。※本記事は法的助言を目的とするものではなく、個別の案件については当該案件の個別の状況に応じ、日本法または現地法弁護士の適切な助言を求めて頂く必要があります。また、本稿に記載の見解は執筆担当者の個人的見解であり、TMI総合法律事務所または当事務所のクライアントの見解ではありません。

はじめに

最近SDGs(持続可能な開発目標)という言葉をよく耳にするようになりました。SDGsが掲げる11のゴールには、「つくる責任つかう責任」というものがあり、廃棄物を管理削減する取組みが含まれるとされています。この持続可能な開発目標は何も地球上に限られるわけではありません。宇宙空間においても、廃棄物に関する問題は地球上と同様に存在しています。そこで、今日はスペースデブリ(宇宙ゴミ)に対して、どのような取組みがなされているのかをお話ししようと思います。

スペースデブリとは

スペースデブリとは、機能していない人工物体及びその破片で、地球の衛星軌道上を周回しているものをいい、宇宙ゴミとも呼ばれています。その多くは、故障した又は役目を終えた人工衛星やロケットの一部が廃棄されることでスペースデブリとなったものです。人工衛星やスペースデブリが検索できるCELESTRAK[1]によれば、地球の周回軌道上に存在する物体の多くを占めるのがスペースデブリとなっています。

 

スペースデブリは、追跡可能な10㎝以上の大きさのものだけで約2万個が軌道上にあり、1㎜の微小なものを併せると1億個を超えるとされており、これらは秒速7㎞を超えて周回しているため(ジェット機の速度が秒速0.3mであることからも、スペースデブリが猛烈な速度で周回していることが分かります)、わずかな破片であっても衝突により人工衛星に甚大な損傷を与え、有人の宇宙船に衝突した場合には致命的な損傷が生じる可能性があります。

 

また、仮にスペースデブリが大気圏に再突入し、地表に到達した場合、地上における被害の可能性もあります。実際に2009年には、米国の商用衛星通信システム「イリジウム」の衛星1機が、運用を終えたロシアの通信衛星と衝突して大破し、更にこの衝突によって、軌道上に大量のスペースデブリが発生しました[2]

 

このように、宇宙活動の発展に伴い、人工衛星やスペースデブリの数は年々増加し続け、地球周辺の宇宙空間における宇宙物体の衝突の危険性は高まる一方であり、スペースデブリの発生を抑制する取組みや除去の技術が研究されています。

スペースデブリの発生抑制への取組み―法規制

(1)日本では、人工衛星等の打上げ及び人工衛星の管理に関する法律第6条第1号において、人工衛星等の打上げ許可の基準として、ロケット安全基準に適合していることを要求し、これを受けた人工衛星等の打上げ及び人工衛星の管理に関する法律施行規則第7条第6号において「人工衛星等が分離されるときになるべく破片等を放出しないための措置が講じられているものであること」をロケット安全基準の一つに定めています。

 

(2)また、日本が批准している月その他の天体を含む宇宙空間の探査及び利用における国家活動を律する原則に関する条約(以下「宇宙条約」といいます)第6条では、条約の締結国が、宇宙空間における自国の活動について国際的責任を負うことを規定しています。また、宇宙条約第8条では、宇宙空間に発射された物体に対し、当該物体を登録した国が管轄権を有するとともに管理権限を有するとして、当該物体を管理すべきことを規定しています。さらに、宇宙条約第9条は、条約締結国に対し、月やその他の天体を含む宇宙空間の有害な汚染を回避するように宇宙空間の研究及び探査を実施すべきことを要求しています。すなわち、宇宙条約は、物体を宇宙に打ち上げた国は、当該物体を管理し、その責任を負うことを規定し、宇宙空間の有害な汚染を避けることを要請しています。しかし、宇宙条約は各国の義務を一般的な形で規定するにとどまり、それ以上にスペースデブリに対する具体的な義務を定めておらず、実効性に欠ける面があることは否めません。また、法的拘束力のある条約によってスペースデブリに関する義務を定めると、宇宙活動の自由を制限してしまうという懸念もあることから、宇宙条約において具体的な義務を定めていないとも考えられます。

 

(3)そこで、2007年には、国際連合宇宙平和利用委員会(COPUOS)において、法的拘束力のないガイドラインとしてスペースデブリ低減ガイドライン[3]が制定されました。このガイドラインでは、具体的なスペースデブリ低減措置の内容が定められ、最大限可能な範囲で自主的に対策を取ることが望ましいとされています。

 

スペースデブリ低減ガイドライン
スペースデブリ低減ガイドライン

 

(4)近年では、令和元年6月21日に、COPUOSにおいて、宇宙活動に関する長期持続可能性ガイドライン(LTSガイドライン)が採択されています[4]。このガイドラインは、宇宙ごみ低減や宇宙物体の安全を含む宇宙活動の長期持続可能な利用を目的とした,加盟国が自主的に実施すべきグッドプラクティスであるとされています。具体的には、「スペースデブリ監視情報の収集、共有及び普及の促進」「長期的なスペースデブリの数を管理するための新たな手法の探査及び検討」等を含む21のガイドラインが採択されています。

スペースデブリの除去技術

上記の取組みは、スペースデブリの発生を抑制することを目的としていますが、既にスペースデブリは膨大な数が存在していますので、発生を抑制しているだけでは問題の解決になりません。そこで、スペースデブリの発生を抑制するだけではなく、積極的にスペースデブリを除去する技術が研究されています。

 

除去方法は様々な手段が考えられており、例えば人工衛星を用いて個別に回収する方法、網のような素材を展開し捉える方法、レーザーを照射して融解する方法などがありますが、未だ確実な技術確立には至っていません。わが国では、JAXAが主体となり、世界初の大型デブリ除去の実証実験が行われます(商業デブリ除去実証CRDⅡ[5])。

 

来年度のフェーズ1打上げがとても楽しみです。日本が技術面でも世界をリードして、出したごみは自ら片付けるというデファクトスタンダードを確立できることを祈っています。

 

TMI総合法律事務所

弁護士 新谷 美保子
弁護士 三田村 大介

 

○執筆者プロフィールページ
   新谷 美保子

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