経営者の自覚を持たない大家が失敗するワケ
家主業は「不労所得が得られる」といわれていた割には、いろいろな知識を必要とする商売だ。その知識を身につけずに始めるから失敗する。大体不動産業界は、多額の資金が動くだけに曲者が多い。2017年に積水ハウスがトラブルに巻き込まれた「地面師」の事件一つとってもそうだろう。大手住宅メーカーの積水ハウスでさえ、所有者を装った詐欺師グループを見抜けず、55億円もの損失を出した。
そんな世界に、素人が投資目的で不動産を購入しようと入ってくれば、いいカモがやってきたとばかりに狙う輩は多くいる。もちろん不動産業界もそれを容認しているわけではない。業界自体も、クリーンな取引ができるように努力はしているが、すぐに改善されるわけではないからこそ、業界についての知識を身につけることが重要であることを伝えたいのだ。
上っ面の投資ノウハウばかりに目が行き、本来知っておくべき業界の常識も含めた家主業に関する知識を持たない人が、2013年頃からの融資緩和で、不動産を購入し家主になった人に多いと感じる。
経営者の自覚を持たない人も失敗する。家賃収入があり、借金返済、経費を差し引いて、残ったお金をすべて自分の利益だと勘違いするのはその典型だろう。経営なのだから、本来であれば、将来の投資への内部留保をするべきなのに、使い込んで、いざ修繕などでお金が必要になったときに、その資金がなくて困る、などという話はよく聞く。
株式投資などとは違い、事業だからこそ、将来その事業に使う資金をきちんとプールしておくことは当たり前のことである。不動産投資という言葉は、そういう認識さえも払拭してしまうため、勘違いする人が多いのだろう。
最終的には資産拡大を目的としている事業だからこそ、欲の皮が突っ張りやすく、結果として失敗する人もいる。大事なのは、「資産を増やす」といっても、どんな目的で、どの程度まで増やすのか、その目標を明確に設定することだ。
本連載は、老後に不安を抱く人向けに書いた。老後、それぞれの人が理想とする生活を送るための必要資金をつくるために、不動産で資産を増やすという方法があることを伝える本だ。中には早くサラリーマンから卒業したいという目的に変わる人がいるかもしれないし、うまくいきだすと「富裕層になりたい」と考える人が出てくるかもしれない。目的を変更する際に、周りの目を意識しすぎていないかどうかが重要になってくる。