新型コロナウイルスの感染拡大によって不動産の世界は激変している。景気後退が叫ばれ、先行き不透明感が増すなか、日本経済はどうなるか、不動産はどう動くのかに注目が集まっている。本連載は、多くの現場に立ち会ってきた「不動産のプロ」である牧野知弘氏の著書『不動産激変 コロナが変えた日本社会』(祥伝社新書)より一部を抜粋し、不動産の現状と近未来を明らかにする。

「通勤」がなくなる会社が続出する?

緊急事態宣言終了後もテレワークを継続する会社が後を絶ちません。

 

日立製作所は社員の7割に対して週2日から3日、在宅勤務にすることを発表しました。NTTでは社員の5割を在宅勤務に、日清食品では出勤する社員数は上限を25%とすることを決定しました。こうした措置はテレワークによる業務に支障がないことを認識し、テレワークによる働き方をむしろポジティブにとらえて、これを経営に取り入れていこう、という動きです。

 

大企業を中心に「通勤」がなくなっていくのか。(※写真はイメージです/PIXTA)
大企業を中心に「通勤」がなくなっていくのか。(※写真はイメージです/PIXTA)

 

こうした動きは、大企業を中心に広がりを見せています。多くのサラリーマンがあたりまえに思い、毎朝毎夕行なってきた「通勤」というライフスタイルが変わるのです。通勤のウエイトが下がれば、家の選び方が変わります。90年代半ば以降、夫婦共働きがあたりまえになり、子供を保育所に預けて夫婦で都心に通勤するというスタイルが家選びの基準を作ってきました。

 

会社がある大手町まで直通40分、最寄りの駅までは徒歩5分以内のマンションが家選びの基準と言われました。都心部のマンションは価格も高く、夫婦と子供が住むファミリータイプのものでは、新築で7000万円から1億円を超える水準になりました。以前と異なるのは夫婦共働きであるがゆえに、ローンの調達力が格段に向上したことです。おまけに低金利政策が長く続き、税制面でも満艦飾の補助が加えられてきた結果、30年から35年もの長期ローンを夫婦揃って組んで都心部のマンションを買うというのが、あたりまえのライフスタイルになったのです。

 

ところが大手町の会社まで出かけるのは週1回、あるいは月に2、3回などということになると、これまでの家選びの基準は一変します。大手町に近くても、旧工場地帯にあって、周囲に利便施設が乏しい、環境がある程度整っているのはマンションの敷地内だけであって一歩外に出ると、倉庫やコンテナばかりというところもあります。こうした立地の物件を多額のローンを組んで買うという選択肢は、なくなってきます。一日を過ごすには生活環境として疑問符が付くからです。

 

駅まで5分以内という基準も、さして重要な選択基準とはならなくなります。駅はたまに行く場所ですから、ひじょうに遠いのは困りますが、徒歩で行ける範囲、あるいはバスや自家用車でのアクセスさえ確保できていれば、それで十分ということになります。

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不動産で知る日本のこれから

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