老後も上手く生きていける人の条件
読者の皆さんの中には「何十年も前のことを何を今さら」と思う方もいるでしょうが、過去の呪縛に縛られている人は意外と多いものです。仕事一筋、会社の発展に尽くしてきた元企業戦士は、戦場から帰ってきた帰還兵と同じで、喪失感との闘いなのではないでしょうか。そしてその喪失感を埋めてくれるものが家族ですが、その家族との関係が上手くいっていない高齢者も多いようです。
家族のために良かれと思い、懸命に仕事に打ち込んできたが、それを家族は、家庭を顧みない仕事人間だと酷評し、悪者扱いをされている高齢者。逆に、仕事にかこつけて家族のことを本当に顧みずにやってきて敵(かたき)を取られている高齢者。老人ホームに入居している多くの高齢者を見ていると、経済的な事情も重要ですが、実は、家族関係も非常に重要だと思います。
老人ホームで快適に生活をしている高齢者に共通していることは、家族との人間関係が良好な人が多い。そのことをどうぞ忘れないでほしいと思います。このような話をすると、老人ホームに入居する原因は「家族が面倒を見ることに限界を感じたからだ」「家族から見放された人が老人ホームに入るのではないのか」と書いていたではないかと、疑問がわく読者もいるでしょう。
たしかに、多くの入居者はこのパターンです。だから、多くの入居者は不本意な形で老人ホームに入っています。しかし、一部の入居者は、家族との良好な関係を維持することができています。その結果、たとえ老人ホームに入っていても、入れ替わり立ち替わり家族が面会にやってきて、外食に行ったり、自室内で談笑をしたりと、自宅と同じように過ごしている入居者も存在しています。
介護職員をしていると、入居者を取り巻く家族関係は手に取るようにわかってきます。毎日のように子供が訪ねてくる入居者、特定の家族しか訪ねてこない入居者、まったく家族の顔が見えない入居者、会社関係者しか訪ねてこない入居者、訳アリの人が訪ねてくる入居者などなど。どのような入居者の在り方が正しいのかは論じられませんが、介護職員は訪ねてくる人の状態によって、入居者の生きざまを理解し、少なからず介護のやり方に反映させていくものなのです。
介護職員も当然のこと、人の子です。物わかりの良い入居者と物わかりの悪い入居者とでは、物わかりの良い入居者のほうが好きなのは当たり前です。