どうやって老人ホームを選んだらいいのか? それには入居者の生の声を聞くのが一番と、国内最大の老人ホーム紹介センターを経営する著者は断言します。そこで著者は、数々の入居者のエピソードを通して、ホームでの暮らしの悲喜こもごもを紹介。現在、国内最大の老人ホーム紹介センターを経営する著者が、実は知らない老人ホームの真実を明らかにします。本連載は小嶋勝利著『老人ホーム リアルな暮らし』(祥伝社新書)の抜粋原稿です。

「措置」から「サービス」へ高齢者福祉は進化した

本当に、介護職員はいないのか

 

「介護人材が集まらない」「介護職員がすぐに辞めてしまう」……、こと人材にまつわるネガティブな話は、介護業界には溢れています。そのくせ、行政を含めた業界団体は、効果的な手を打とうとはしません。すべてを企業に押しつけ、企業努力だけで解決させようとしています。有識者と言われている多くの人たちから発せられる発言の多くは、「賃金が安いから良い人材が集まらない」ということですが、私はこの考えには、まったく同意することができません。私は、介護業界の人にまつわるネガティブな話─つまり、人材が集まらない、集まった人材がすぐ辞めてしまう、ということを解決するための最優先課題として、そろそろ「利用者や入居者の教育」が必要なのでは? と考えています。

 

2000年に介護保険制度が始まり、それまでの「措置」から「サービス」へ高齢者福祉は進化しました。しかし、利用者や入居者、介護職員などのすべての関係者にとって、この進化は有益な進化だったのでしょうか。

 

介護職員の質が低下しているという話は本当か。(※写真はイメージです/PIXTA)
介護職員の質が低下しているという話は本当か。(※写真はイメージです/PIXTA)

 

私は大いに疑問を持っています。勘違いしないでください。私は、介護保険制度自体はひじょうに良い制度だと思っています。1割、2割の自己負担で一定の介護保険サービスを受けることができるわけですから、要介護状態になった場合は心強いと思います。問題はその運用方法について、誰も現実に即した言及をしていないことではないでしょうか?

 

措置からサービスになり、利用者や入居者を「お客様」「利用者様」と「様」付けで呼ばなければならなくなりました。さらに、サービス契約に基づきサービスを提供しなければならないということが独り歩きし、措置時代の「施し」や「好意」という情緒的なものから、契約に基づく約束に変わり、その約束を果たすために介護職員に対し、不平等な労務契約を強いられているのだと思っています。なお、私の言う不平等な労務契約とは、会社と介護職員ではなく、お客と介護職員との間にある、見えない労務契約のことを言うのです。

 

以前、訪問介護で問題になったことがありました。訪問介護員に利用者の居室だけではなく、自分たちや子供たちの居室まで掃除させている事実や、利用者の食事だけではなく自分たちの食事の支度や買い物までを頼む事実が発覚したことがあります。

現在は、掃除や食事などの生活支援と呼ばれるサービスは、極力介護保険制度から外れていく方法で調整が続いています。

 

介護職員の真実から目を離してはいけない

 

介護業界でよく言われるのは、介護職員の質が低下しているという話です。以前は老人ホームでは、50点の介護職員を80点にする研修が流行っていたのですが、今では、20点の介護職員を40点にする研修になっているなどと言われています。私自身の経験を振り返って考えても、そう言われればそんな気もします。そうでない気もします。つまり、職員の劣化について、以前と比べて本当に進んでいるのか、実はよくわからないというのが実情です。

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誰も書かなかった老人ホーム

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