いい老人ホームだと近所で評判だったのに、入居したら酷い目に遭った――。老人ホーム選びでは口コミがまるで頼りにならないのはなぜか。それは、そのホームに合うか合わないかは人によって全く違うから。複数の施設で介護の仕事をし、現在は日本最大級の老人ホーム紹介センター「みんかい」を運営する著者は、老人ホームのすべてを知る第一人者。その著者が、実は知らない老人ホームの真実を明らかにします。本連載は小嶋勝利著『誰も書かなかった老人ホーム』(祥伝社新書)の抜粋原稿です。

女性入居者が実践する自分が好かれる方法

多くの女性入居者は、どう自分が立ち回れば介護職員から好かれるのかを、よく知っています。女性入居者、つまり「おばあちゃん」の老人ホームでの処世術を見ていきましょう。

 

◆「もの」で釣る入居者の場合

 

ある入居者は、介護職員にものを頼んだ場合、必ずお菓子をくれます。飴玉一つ、せんべい1枚、缶ジュース1本でも、必ずくれるのです。「ありがとう」とお礼を言われ、「後で食べてね」と一言添えてお菓子をくれます。

 

女性に比べ男性は過去に縛られる。(※写真はイメージです/PIXTA)
女性に比べ男性は過去に縛られる。(※写真はイメージです/PIXTA)

 

当然、介護職員側も悪い気はしません。もちろん、このことは家族にも連絡し、事務所で保存のきくものは、ひとまとめに保管し、後でそっと返しておきます。返すぐらいなら貰わなければいいのにと思われるかもしれませんが、貰うのも介護のうちだと、私たちは考えていました。入居者が職員にお菓子をあげるという行為は、自分も人の役に立ったと、自分の行動で相手が喜んでいることを実感することです。したがって、貰うのも仕事。しかし、いつもいつも職員が貰っていては、何のために入居者がお菓子を買って持っているのかわからなくなります。中には、自分では一切食べずに、すべて職員に配るために買っている入居者もいます。

 

その昔、私が夜勤をしていると、決まって、お菓子を両手いっぱいに持って事務所を訪ねてくる入居者がいました。「夜勤ご苦労さま。おなかがすいたら食べてね」と言って、毎日持ってきてくれます。持ってくる目的は、自分のことを少しは特別に見てくださいということなのですが、もちろん、そんなことをしなくても、必要があればしっかりと夜勤者は見ています。

 

何度もそういう説明をしましたが、お菓子の持参は長く続きました。家族と話をし、家族も「それで本人が安心をしているのであれば安いもの。介護職員さんのおやつにしてください」と言っていましたが、こちらとしては、そうはいきません。結局、ホームで買い物を代行していたので、持ってきたお菓子をそのまま次の買い物代行で買ったことにして、上手く循環させるようにしていました。

 

◆可愛い認知症の入居者の場合

 

この方は、認知症で全介助のおばあちゃんでした。全介助とは、基本的に自分自身では何もできない人のことを言います。介護職員からすると手がかかるので、普通は好かれるケースは少ないのです。しかし、おばあちゃんは介護職員全員から好かれていました。仕草が可愛らしかったことと従順な人柄によるところが、大きかったと思っています。

 

介護職員の声掛けにも「NO」と言いません。すべて「YES」の笑顔で応えてくれます。「そろそろトイレに行きましょう」「食事の時間です」「ご飯はたくさん食べてくださいね」「水分を取らないと脱水になってしまいます」という声掛けに対し、常に「はい」と回答し、素直に従ってくれます。中には介護が簡単でいいやと考える職員もいたと思いますが、多くの職員は、Bさんは、全面的に自分を信用してくれている、自分がしっかりと彼女のことを考えて対応しなくてはならない、と考えていたはずです。かく言う私も、自分の判断ミスがあればBさんを苦しめることになるので真剣にやらなくては、と思っていました。

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誰も書かなかった老人ホーム

誰も書かなかった老人ホーム

小嶋 勝利

祥伝社新書

老人ホームに入ったほうがいいのか? 入るとすればどのホームがいいのか? そもそも老人ホームは種類が多すぎてどういう区別なのかわからない。お金をかければかけただけのことはあるのか? 老人ホームに合う人と合わない人が…

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