物わかりの良い入居者が好かれるのは当たり前
もともと、介護職員になるような人は、気持ちの優しい人が多いのです。言い換えれば、気が弱いとか打たれ弱い、傷つきやすいと言ってもいいかもしれません。したがって、いくら相手が認知症で訳のわからないことを言っていたとしても、具体的に悪態をつかれたりすると、心が傷つくのです。
何も文句を言わず、すべてを受け入れ、我慢をしているような入居者に対しては、申し訳ないという思いが生まれ、特別に何かしてあげたい、しなければならないという気持ちになります。費用を負担しているのだから元を取らなければ、しっかりと仕事をさせなければ、と考えるのも人の気持ちとしては理解できますが、大人の対応をしてみると、意外なほどサービスが良くなるということがあるのです。
老人ホームの場合、何をするにしても、どうしても順番を守るということが生じます。なぜなら、多くの入居者に同じサービスを提供するためには、順番が発生するからです。入居者の中にはどうしても一番でないと気がすまない方もいます。一番風呂でなければ嫌だ。一番先に食事をしたい。一番先に部屋の掃除をしてほしい。
さらに、老人ホームの入居者には「自分だけのマイルール」というものがあります。食堂の座る「場所」であったり、お茶を飲むカップであったり、コーヒーはミルク多めで砂糖は無し、というような。誰にでもこのようなルールはあるのですが、老人ホームの場合は、このルールを誤ると大騒ぎになります。よく介護職員が遣う言葉に「不穏」がありますが、このルールを無視すると、まさに入居者が「不穏」になり、その日一日機嫌が悪いということは日常茶飯事なのです。
そのような中、物わかりが良い入居者は当然、介護職員からすると扱いが「楽」ということになります。どうしても一番でなければならない入居者がいるので順番を譲ってもらいたい。そんな時、文句を言わず、笑顔で「どうぞ」と言ってくれる入居者は介護職員にとって地獄に仏、ということになります。もちろん、介護職員からすると、借りができたわけですから、その借りを返したいと思います。何かで恩返しができないかと考え、要求が無くても特別にささやかな便宜を払うことを介護職員は実践します。