総額2000万円ほどの遺産を均等に分けるはずが…
相談者が事務所にやってきたのはそれから3日後のことである。相続権を持つ3兄弟の長男で、大手企業に勤める50代の会社員だった。
「どうぞお座りください」私がそう勧めると、彼は軽く礼をして浅く腰掛けた。「ありがとうございます」彼が言う。低くて渋い声だった。よくみると身なりもよく、育ちのよさが表れるダンディーな雰囲気であった。
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「相続の配分について相談があると聞いています」私は早速切り出した。「はい。先月、父が亡くなり、その際に相続が発生しました。その件に関して相談に乗ってもらえないかと思いまして」ダンディーさん(仮名)が言う。そして、「相続といってもたいした資産はないのですが」と付け加えた。
相続の内容を聞くと、長男の言うように、決して多額ではなかった。内訳は、預金800万円、母親名義の自宅、賃貸用として持っていた都内のワンルームマンションが1部屋である。母親名義の自宅は千葉県にあり、相続財産の評価基準となる路線価も高くない。
「千葉の家には私と家族が住んでいます。母親はワンルームマンションでひとり暮らしをしています」「一緒には暮らしていないのですね」「ええ。千葉の家はちょっとした丘の上にあって、道から家の玄関まで長い階段を上がらなければなりません。母には負担が大きいだろうということで、3年ほど前から父と一緒に賃貸用として持っていたマンションに住んでいました」「なるほど」
ざっと相続遺産を計算したところ、総額は2000万円ほどになった。妻と3人の子どもがおり、基礎控除額の範囲内の相続であるため、相続税はかからない。そう伝えると、「そうですか」とダンディーさんは小さく頷いた。おそらく相続税が発生しないことは事前に調べていたのだろう。つまり、相談したい理由が別にあるということだ。
「それで、相談とはどんなことですか?」私は単刀直入に聞いた。「はい。恥ずかしい話なのですが、兄弟の中で遺産をどうやって分けるかについて話がこじれていまして」ダンディーさんは少し顔をしかめ、そう答えた。