「現金を渡した日以来、私も母親も話をしていません」
「そうですね」長男はそう言い、白くなった髪を少し撫でた。「ただ、すべて終わった解放感のほうが大きいです」ダンディーさんは言う。
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「お母様はどうしていますか?」「おかげさまで元気です。千葉の家で暮らすのにも慣れましたし、嫁や私の子どもたちとも仲よくしています」「兄弟とは?」「現金を渡した日以来、私も母親も話をしていません」「そうですか」
私はとても残念な気持ちになった。相続トラブルは収まったが、結果として家族はバラバラになってしまったのだ。
「幸いだったのは、千葉の家が残ったことです。あの家まで売り、私たちまで引っ越すとなると大変さがさらに増していたと思います」「そうですね」
「今はまだ元気ですが、いずれ母も他界します。その時に、千葉の家の相続でもめないように、母には千葉の家を私に譲るという遺言状を書いてもらう予定です」「それがよいと思います」私はそう返した。遺言状が1枚あるだけで、相続トラブルを未然に防ぐことができるものなのだ。
長男を見送った後で、私はスーさんに電話をかけた。「すったもんだありながらも、一応は無事に解決したみたいでさ。さっきダンディーさんがお礼に来てくれたよ」私はそう伝えた。
「そうですか。今回もすっかりお世話になりました」「1年もかかったよ。このお礼は高くつくぞ」
「わかっています。ところで、母親が住んでいた賃貸用のマンションも売ったのですか?」「売った。そのお金に、残っていた貯金と自分のお金まで足して、次男と三男に渡したんだと。母親は長男と同居するらしい」「そうですか。ということは、これから母親の生活も長男が面倒みるわけですね」
「そういうことになるな。長男と母親がすべての負担を背負ったっていうことだ。自宅はいずれダンディーさんが相続するらしいから、遺言状の手続きはそっちで手伝ってやってくれ」「わかりました」
「それはそうと、こういう相続トラブルはしょっちゅうあるものなのかい?」