結局は「ゴネ得」という残酷すぎる事実が…
「しょっちゅうではありませんが、珍しくもないですね。今回は1年でカタがつきましたが、3年、5年ともめているケースもあります」スーさんが言う。
「それはひどいな。なんでそんなに長引くんだい?」「ゴネる人がいるんです。デパートやお菓子屋で子どもが駄々こねることがあるじゃないですか」「おもちゃ買って、お菓子買って、の駄々かい?」
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「そうです。それと同じことをやるんですよ。遺産があるとわかり、欲しい、もらいたいとゴネる。当然、他の相続人は拒むわけですが、ゴネるほうもしぶとくゴネ続けて長期化します。すると、母親が根負けしておもちゃやお菓子を買うように、家族が折れる。気心知れた家族だからこそ、そういうわがままが通り、ゴネ得となることがあるんです」「甘えだな」「ですね」スーさんはそう言い、笑った。
「防ぐ方法はないのかい?」「遺言状を書いた上で、しっかり家族で話し合っておくしかないでしょうね」
電話を切り、私は大きくため息をついた。亡くなった父親は、まさか子どもたちが相続でもめることなど想像していなかっただろう。もめるほどの財産はない。そう思っていたのかもしれない。
実際、財産の額は大きくなく、相続税もかからなかった。しかし、相続税はなくても相続はある。税金が発生するかどうかと、相続を巡ってトラブルが起きるかどうかは、実はあまり関係ないことなのだ。
「ゴネ得」と、スーさんは言った。その通りだと思った。次男は自分のわがままを通した。その様子を見て、三男もゴネた。やっていることは子どもと同じだ。「あの子がおもちゃ買ってもらった。だから自分も買って」そうやって駄駄をこねる子どもなのだ。
しかも、次男と三男は欲求を貫いたのに、家族はバラバラになった。そこが最も心苦しいところだ。仮に父親が遺言状を書いておけば、あるいは財産の配分について家族と話し合っておけば、このような末路をたどることは防げたかもしれない。財産について話し合うのは決して難しいことではない。それだけに、最悪といってもいい結果になったことが残念でならなかった。