「すべてが決着」そこには長男の変わり果てた姿が…
「お母様にも相談したのですか?」「はい。私たち兄弟がもめていると知り、私と一緒に暮らすことに同意してくれました。不満はあったと思います。千葉の家に引っ越すのも手間です。しかし、それ以上に兄弟が仲違いしているのが嫌だったのだと思います」
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「そうですか。ダンディーさんが決めたのなら、それが最善の方法なのだと思います」私はそう言った。他に言葉が見つからなかった。
長男は几帳面で、その後も進捗状況をこまめに教えてくれた。
「不動産業者に聞いてみたところ、マンションは500万円くらいで売れるのだそうです。それを合わせれば、まとまったお金になります」ある日、電話口でダンディーさんが言った。「そうですか。結局、次男と三男にはいくら渡すことにしたのですか?」「次男には1000万円、三男はその半分の500万円です」
預金は800万円、マンションを売って500万円である。両方足しても兄弟に渡す1500万円に届かない。まさか千葉の自宅まで売る気ではないか。私はそう心配した。
「足りない分はどうするのですか」「私の貯金で補います」ダンディーさんはそう答えた。「自分の貯金を兄弟にあげるということですか?」「ええ。それしか収める方法がないと思いました」
そこまでする必要があるのだろうか。私はそう思ったが、ダンディーさんには言わなかった。ダンディーさんはきっと、自分の蓄えを削ってでも、この相続の一件を終わらせたいのだと思ったからだ。その後、長男はマンションを売り、兄弟たちに現金を渡した。結局、すべて解決するまでに1年ほどかかった。
すべて決着したという報告を受けてから数日後、お礼がしたいとのことで再び長男が事務所にやってきた。その姿を見て、私はダンディーさんの苦労がいかに大きかったか実感した。
ダンディーさんの髪の毛はすっかり白くなり、頰は痩せこけていた。もはやダンディーな出で立ちは消え去り、疲れた50歳の中年に成り下がっていた。たった1年の間に、人はここまで老けこむことがある。私は気の毒に感じ、同情した。それだけこのトラブルがダンディーさんの心労になっていたということだ。
「大変でしたね」私は労いの言葉をかけた。